春風亭一之輔の「心眼」後半
2025-04-24


 並んでいるのは、納めの提灯ですか、いいもんですね。 人力、車に気を付けろって、お竹がいつも言ってます。 降りたのは、女の人ですか、いい女だ。 芸者だよ、一流の、東京でも指折りの。 家のお竹もあれくらいですか。 お竹さんは、指折りのまずい女だ、人三化七というけれど、お竹さんは、はっきりしていて人ナシ化十、ごめんね。 どうってことはない、人間はここだ、と胸を叩く。 いいかい、あの人を不幸にしたら罰が当たる。 女のおこもさんがいるけれど、あれよりは? お竹さんは、少し劣るね。 でも、ここだ、と胸を叩く。 お前さんは、いい男でね、役者みたいな、山の小春を知ってるかい。 お得意で。 芸者衆呼んで一杯やってたら、本当にいい男は梅喜さん、役者じゃなくて、独り身だったら、苦労してみたい、と言っていた。

 人が大勢いますね。 仲見世だ。 叩いて、目をつぶると、わかる。 良い匂いは、人形焼きか、こういう形なんですね、食べさせてやりたい、お竹に。 子供の玩具、風車、ちいせえ頃に、見てました。 親父が買ってくれた。 金公が貸してくれって言って、弟に譲ってやれって、親父が。 凧でしょ、私も上手い、思い出しちゃった。 金さんとこにも行きなさい、仲良くしなよ。 五重塔だよ。 お線香の煙、こんなことをしていたのか、みんな体の悪い所に当てているんだ。 鳩が、飛んでった。 あんまり、指を差すんじゃないよ。 階段は、見晴らしがいい。 雷門だ。 観音様、梅喜はいい按摩です、目が明いたんで、よろしく。 お賽銭が一杯だ、儲かってますね。 あんな所に人が…。 姿見に、映っているんだ。 本当だ、手を挙げると、向うも挙げる。 なるほど、いい男かもしれない。 あれは旦那、お気の毒なんだ。

 梅喜さん! どなた? あたし、わからない、小春。 小春姐さん。 おめでとう、目が明いたって。 いい女ですね、きれいですね、初めておめにかかったけど。 お祝いをしたい。 (手で酒を飲む形)こんなことをやりたい、少しいいかい。 行きますか。 上総屋は、お竹の所へ梅喜の目が明いた知らせに、お堂の階段を上る。 梅喜は、小春に手を引かれて待合に入った。 座敷の様子を眺め、一杯やる。 不調法で、一杯これで。 目が明いて飲む酒は、美味かった。 これはマグロ、こんな色をしていたんで。 これ山葵、これシタジ、いただきます。 山葵利いたか目に涙。 美味いねえ、姐さん。 おかみさんも、嬉しいでしょう。 お竹の、おかげですよ。 だけど、家に帰るの怖い、上総屋さんから人ナシ化十って、聞いた。 梅喜さん、そんなこと言っちゃあ駄目よ。 ただ、目が明くと心配になっちゃって。 何をお言いだよ、止めてくれ、そんなこと言って。 器量を褒められても、嬉しくない。 お前さんに惚れてんだよ。 生涯苦労したいって思っているんだよ。 その女に向って、そんなこと、言うんじゃないよ。 本当に惚れてんだよ。 あっしだって、一緒になりたい。 でも、おかみさんが。 どっかに、逃げませんか。 私と逃げましょうか。

 梅喜さん、お前って奴は。 何だ。 私、お竹で、首絞める。 許してくれ、勘弁してくれ。 お竹、死んじまう、勘弁してくれ。

 何をうなされているんだろうね、この人は。 梅喜さん、大丈夫か。 どうしたの、梅喜さん、うなされて、泣いてた。 梅喜さん! ハ、ハイ。 お竹、勘弁してくれ、許してくれ。 ごめん! 何よ、もう、ハイ、ハイ、ハイ、わかりました。

 おまんま、支度できてますよ、今日も行くんでしょ、お薬師様。 俺、信心、よした。 盲人ていうのは不思議なものだな、寝ているうちだけは、よく見える。

[落語]

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