米CNNワールドワイドのCEO(最高経営責任者)のマーク・トンプソンさんは1957年生れ、かつて英BBCで会長を務め、2012〜20年には米ニューヨーク・タイムズ(NYT)の社長兼CEOとして、デジタルの売り上げが紙媒体を上回るまで成長させた人で、23年10月から現職だという。 朝日新聞は3月13日の「インタビュー」で、マーク・トンプソンさんに、存在感を増すSNSと、トランプ政権下で強まるメディアへの圧力、揺れ動くジャーナリズムの未来について、話を聞いた。
フェイクニュースは、ある種の「うわさ」であり、SNSは「うわさ」を作ること、拡散することをより簡単にした。 そうした情報に人々の興味がかき立てられていることも、現実の一部だ。 大切なのは、メディアとして自らの価値を保ち、ブランドを目立たせ続けることだ。 そうすれば、フェイクニュースの海に浮かぶ「真実の島」になることができるだろう。
トランプ氏は、政権に批判的なメディアにしばしば攻撃的な姿勢をとっているけれど、政治家には発言の自由があり、我々の仕事はジャーナリズム、事実を報じるという本来の義務がある。 報道の自由は、米国憲法修正第1条で保障されており、守り抜くべきだ。 政府が編集方針に介入する国もあるが、それは米国の伝統ではない。 異なる報道機関が、ときに矛盾した選択をすることも、民主主義の多元性において強みとなる。 人々はその中で選択できるからだ。
CNNは米国の中で、最も政治的立場が多様な視聴者を抱えているメディアの一つだ。 むやみにリベラルなメディアとくくられることを、否定する。 我々の使命は、「何が起きているのか伝えること」であり、ニュースを届け、議論のプラットフォームとなるべきだ。
デジタル化は、視聴者が触れるメディアの選択肢を増やし、より柔軟で便利なものにした。 以前は、「何を見るか、読むか」は少数のテレビ局や新聞社によって決められていた。 既存メディアの寡占状態が崩れた今、変革が必要だと考えている。 視聴者がどのようなメディアを利用しているかをよく観察し、ニーズに応えることだ。 従来の視聴者は貴重で、きちんとサービスは提供すべきだ。 NYTも、CNNも、従来のサービスを効率的に提供しつつ、デジタル事業に資本を移動させようとしている。 変革の一方、真実のために政府や権力機関の責任を追及し、公正であろうとするジャーナリズムの信念は変わらない。
昨年、ニュースサイトにペイウォール(課金制)を試験的に導入した。 ユーザーが一定回数以上のニュースを見ると、月額3・99ドル(約600円)の支払いを求める仕組みだ。 米国では人々は伝統的にお金を払って新聞を読んできた。 それは、質の高いオンラインニュースでも同じだということを、思い出してほしい。 多くのユーザーが無料でニュースを見ることができる状況でも、CNNのプラットフォーム全体には毎月、約1億6千万人が訪れており、ライトユーザーが購読者になりうると考えている。
CNNでは、コンテンツ戦略にAI(人工知能)の活用を模索している。 一方で、人間らしい報道を失いたくない。 AIは大量のフェイクニュースを生み出す可能性もあるが、AIを訓練し、真偽を検証するプロセスに活用することができる。 衝撃的な映像があるとき、AIの手も借りて私たちが検証し、「これが真実だ」と伝えるといった使い方を重視している。
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