9年前の2016年4月10日のNHK『日曜美術館』は、「熱烈ダンギ! 若冲」という番組があった。 録画してあったので、見る。 『日曜美術館』40周年の番組で、司会は俳優の井浦新と伊東敏恵アナ。 ちょうど伊藤若冲生誕300年、上野と京都で若冲展が開かれ、一大ブームが起きた年だ。 ゲストは、杏子(ロックシンガー)、辻惟雄(美術史家)、挟土秀平(左官職人)の三人。 辻惟雄(のぶお)さんは、従来、狩野派や土佐派など伝統的な画風から大きく外れたユニークな画家として忘れ去られていた一人の伊藤若冲を、1970年に『奇想の系譜』で再発見し、以来人気が出て、2000年に初めての展覧会「若冲」が京都国立博物館で開かれた。 『奇想の系譜』で、「新しい美≠打ち出した時代の最先端を象徴するアヴァンギャルドな前衛画家」とされたのは、伊藤若冲のほか、曽我蕭白、岩佐又兵衛、狩野山雪、長沢芦雪、歌川国芳だった。
番組は、伊藤若冲を、生命の姿を描いた、ユーモアのある水墨画、装飾の極み、とまとめて始まる。 《鳥獣花木図屏風》…1センチ四方のモザイク状のマス目86,000個、さらにそのマス目を九つに分割している。 ポリフォニー、リズム感は、現代に直結するようだ。 過剰に向かって、すっきりしている。(挟土さん)
《動植綵絵》…140p×80p、30幅。 42歳から10年かけて描いている。 《釈迦三尊像》と合わせ、相国寺に寄進。 極彩色に輝く生命。 貝や昆虫まで描く。 慈しむ心、自然の持つ色の美しさ。 あらゆる手法で試みる。 魚、ルリハタの深い青には、プルシアン・ブルーを使う、ヨーロッパから輸入されたばかりの貴重な絵の具。 その内《牡丹小禽図》は、直径1ミリの牡丹の花粉まで描いている。 匂い立つほど、濃密な色。 《秋塘群雀図》、粟を描くのに、黄土色の点に穴を開けて、立体感を表現している。 《雪中錦鶏図》、緑青(高価)を何種も使っている。 と緑はなかなか手に入らず、挟土さんはキプロスで緑の土を掘ったという。
若冲の執念について。 辻さんは、《南天雄鶏図》の赤と黒、南天の実には、シュールな気配さえある。 鶏冠(とさか)も細かい。 写生を超えた世界、シュール・リアル、幻想的。 天台宗の教え、「草木国土悉皆成仏」を表すようだ。 《動植綵絵》の入魂十年、なぜ描いたか、実情はわかっていない。 若冲は、中国の絵を千点、模写している。
若冲の自画像だと思う絵。 杏子さんは、《猛虎図》。 挟土さんは、《旭日鳳凰図》、と緑、全部つめこむ。 波の表現など、やれるだけやった感じ、《動植綵絵》の前だが、どこも細密で、ただただ、すごい、得意技が入っている。 やりすぎているベスト版。 辻さんは、《池辺群虫図》。 緑色、虫や蛙、生き物たちの楽園。 浮塵子(ウンカ)まで描く。 若冲には「独楽〓(どくらっか)」=巣穴という雅号もある。
《果蔬涅槃図》は、母の死をきっかけに描いたといわれる。 青物問屋というルーツを使う。 信仰心、家族像、最初に戻るやさしい感じがある。 可笑しみ、愛があり、全部を集めて、みんなが主役。 「ゆるい若冲」、描くことを楽しんでいる「優しい若冲」。 衒(てら)うところがない、奇抜だけれど、自然体で描く。
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