昇太の「時そば」
2009-03-08


 昇太は、いつものように走らずに、静かに出て来た。 名人ぶっているので はなく、転んで足を挫いたのだという。 きのうまでは松葉杖だったが、きょ うから杖にしたら、ひとの扱いがまるで違う。 病院に行った。 病院では個 人情報保護法の関係で、名前でなく「108番さん」と呼ぶ。 看護師さんが「108 番さんは、身長は?」、「108番さんは、体重は?」と訊く。 「108番さんは、 テレビに出ていますよね? 昇太さんですよね」となって、先生も笑いながら 診察、明るい感じになった、という。

 昇太の「時そば」は、新機軸だった。 与太郎が見ていて真似するのではな く、二人の兄弟分が、弟分が八文、兄イ分が七文持っていて、そばを食う。 一 杯だけ注文するので、そばやが「お連れさんは?」と訊くと、「いらない、犬や 猫を生のまま食うような奴だ」という。 兄イ分が一人で食べて、弟分がさか んに袖を引っ張る。 残っていたのはたったの三本だった。 弟分は、それを チューチューと吸う。 三本目は短くて、チュ。 そこで、「時そば」の勘定と なる。

 あくる日、弟分が小銭を持って、それをやる。 一人で行ったのに、袖を引 っ張られたりするあたりが、たまらなく可笑しい。 昇太の新機軸は、大成功 だった。

[落語]

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