テレビでスタジオジブリの映画『コクリコ坂から』制作中のドキュメントを 見た。 どうも鈴木敏夫さんというプロデューサーが、えらいらしい。 著書 『仕事道楽 スタジオジブリの現場』(岩波新書)を読む。 高畑勲と宮崎駿に出 会った時、沢山本を読んでいるのに驚いた。 つきあう以上、相槌をちゃんと 打ちたい、共通の話題を持ちたい、教養を共有したいと思い、彼らが話した本 をひととおり読むことになる。 その中の一冊に、茨木のり子著『詩のこころ を読む』(岩波ジュニア新書)があった、という。
近所の本屋にジュニア新書はなく、銀座に出た折、教文館6階のナルニア国 で入手した。 茨木のり子さんは、この本に選んだ詩はすべて、一篇5億円く らいの値打ちがあると思っているそうだ。 数えると48篇の詩があるから、 総額240億円を、780円で買える勘定になる。 茨木さんは、厖大な埋蔵量で、 そしらぬふりをしている日本語のなかから、言葉を選び、組み合わせかたは無 限、ある日ある時、誰かに発掘されたのが「詩」だという。 その極上の48 篇。 私は河上肇の「味噌」に涙した。 河上肇(1879−1946)はマルクス経済 学者、名文家、京大教授を追われ、左翼運動に従事、5年近くの獄中生活、出 獄、敗戦の翌年死亡した、著『貧乏物語』『自叙伝』など。
関常(かんつね)の店へ 臨時配給の/正月の味噌もらひに行きければ/店の かみさん/帳面の名とわが顔とを見くらべて/そばのあるじに何かささやきつ /「奥さんはまだおるすどすかや/お困りどすやろ」/などとお世辞云ひなが ら/あとにつらなる客たちに遠慮してか/まけときやすとも何んとも云はで/ ただわれに定量の倍額をくれけり/人並はづれて味噌たしなむわれ/こころに 喜び勇みつつ/小桶さげて店を出(い)で/廻り道して花屋に立ち寄り/白菊一 本/三十銭といふを買ひ求め/せなをこごめて早足に/曇りがちなる寒空の/ 吉田大路を刻みつつ/かはたれどきのせまる頃/ひとりゐのすみかをさして帰 りけり/帰りてみれば 机べの/火鉢にかけし里芋の/はや軟かく煮えてあり /ふるさとのわがやのせどの芋ぞとて/送り越したる赤芋の/大きなるがはや 煮えてあり/持ち帰りたる白味噌に/僅かばかりの砂糖まぜ/芋にかけて煮て 食(た)うぶ/どろどろにとけし熱き芋/ほかほかと湯気たてて/美味これに加 ふるなく/うましうましとひとりごち/けふの夕餉を終へにつつ/この清貧の 身を顧みて/わが残生のかくばかり/めぐみ豊けきを喜べり/ひとりみづから 喜べり ――『河上肇詩集』
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