おのみささんの『からだに「いいこと」たくさん 麹のレシピ』(池田書店) という本は、第二章「麹のレシピ」の前に、第一章「麹のはてな」という「麹」 の説明がある。
「麹」は、普通それ自体をそのまま食べることがないので、都会での生活で は、その姿を見ることがなく、その存在に気づきにくい。 しかし「麹」は、 はるか昔から、日本人にとって欠かせない存在であり、日本の食文化をかたち づくり、日本人の健康を支えてきたものと言ってもよいだろう。 現代人だっ て、「麹」で作った調味料の味で育ち、健康的な食生活を送ることができている。 誰もが知らず知らずのうちに、「麹」の恩恵を授かっている、というのだ。
料理の中に、「麹」そのものの姿をあまり見ることがないのは、「麹」が食材 を発酵させるスターターの役割として用いられるからだ。 味噌やしょうゆ、 酢、みりん、酒といった調味料は、すべて「麹」を使った発酵食品で、どれも 「麹」がなければスムーズに発酵が進まない。 「麹」を使った発酵食品には、 ほかに甘酒、酒粕、焼酎、泡盛、漬物、なれずし(石川県の「かぶらずし」、秋 田県の「はたはたずし」)、沖縄の豆腐よう等がある。(「麹」を使わない発酵 食品には、鰹節、納豆、塩辛やくさや等がある)
日本人は、いつから「麹」を使うようになったのか。 奈良時代初期、713 年の『播磨国風土記』に、「麹」を用いた酒造りの最古の記録がある。 おのみ ささんが秋田修農学博士に聞いた、日本人と「麹」菌との偶然の出会いのスト ーリーは、こうだ。 日本の農村では、古代から、米や餅を「神饌(しんせん)」 として、神に供える習慣があった。 それも、できるだけ手間暇かけた最高級 の品を。 最初は、収穫した大切な米を、「粢(しとぎ)」といって、生のまま突 き砕いて固めて供えていた。 そのうち、蒸した米や餅に変わっていった。 す ると、ある日、そこにカビが生えていた…。 人々はそれを、神様が自分たち の日頃の苦労と努力を認めてくれたしるしだと考えたかもしれない。 ある時、 きっと誰か勇気のある人が、「麹」菌の生えた蒸し米を食べてみた。 すると、 普通のご飯より、甘くて美味しかった。 そんな出来事が、酒造りのきっかけ になったのだとしたら、昔から酒が「神酒(みき)」として神事と結び付いてい るのも、ごく自然のことのように思えると、おのみささんは言う。
「雑煮」が歳神様と関わっていたのと同じように、「麹」も神様に関係してい たのが面白かった。
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