日本社会の変化と「就活」
2012-11-02


 『街場の文体論』、第10講「『生き延びるためのリテラシー』とテクスト」 には、たいへんな勢いで社会が変化しているという話がある。 東アジアは今 ホットで、なかでも中国とインドの変化は激しい。 日本でも若い世代は、社 会が変わりつつあるということに気づいている。 ただ、どの方向に、どう変 わるかについては誰も教えてくれない。 新聞もネットもTVも、あるいは周 りの大人に訊いても、これからいったい日本はどうなるのか、誰も知らない、 答えられない。

 友人平川克美君は今の日本を「移行期的混乱」のうちにあるといっている。  第一の徴候は少子化だ。 人口が減り、市場が縮小し、経済成長も終わり、老 人だけが増える。 前代未聞の事態だから、成功体験の前例がなく、自分で探 すしかない。

 「移行期的混乱」の中で君たちはこれから結婚して家庭をつくっていくこと になるわけだけれど、これからは「本当に新しいもの」をつくってゆかないと 間に合わない。 古い制度は、もう賞味期限が切れている。 たとえば「就活」。  君たちもこれからする人、もうしている人がいると思うけれど、すごく変でし ょう、今の日本の雇用状況。 すごく不自然だと思う。

 なんだかんだ言っても、日本はまだ世界第三位の経済大国で、富裕層はいっ ぱいいるし、いくつかの企業は莫大な収益を上げている。 でも、どうして雇 用環境が悪いかというと、それは不況のときに、人件費をカットして、利益を 上げて、味をしめた記憶が残っているからだ。 収益を上げる方法を他に何も 思いつかない経営者はとりあえず採用条件を悪くして、高い能力があって賃金 の安い労働者をこき使って利益を出すという方便に逃れた。 不自然なシステ ムだけれど「長引く不況のせい」と言えば、個人責任は免れることができる。  全部「不況のせい」に丸投げして、雇用環境を好転させるための企業努力を怠 っている。

 そういうのに見切りをつけて、そうした企業に就職しないとか、もっと楽し そうな仕事を探すという方向へのシフトはもう起きていると思う。 生物とし て「元気のいい人」はこういうバカバカしいことに耐えられるはずがない。 大 学二年生から青筋立てて走り回るなんて「間違った状況」に対しては、これは 変だ、変だからやらないというのは、「生き延びるリテラシー」からすれば正し い反応だ。 これはおかしいとか、納得できないとかいうことに関しては、自 分の感覚を信じたほうがいい、何しろ移行期的混乱のうちにあるわけだから。

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