さん喬の「火事息子」前半
2013-01-05


 縦縞の着物のさん喬、お聞き流しを願いますと出て、暮になると救急車や消 防車が多いような気がする、と。 音がうるさくないのは、緊迫感がない、「ド ケッ!ドケッ!」という気持を、もっと表に出していいのではないか。 外国 は、もっとけたたましい。 江戸時代、300年前に大名がそのテリトリーを警 備する大名火消、旗本・御家人の定火消(じょうびけし)、遅れて町火消、町人 の自治消防、いろは四十八組が出来た。 火が広がらないための破壊消防、鳶 口で建物を壊す。 定火消は役屋敷にいて、自分のテリトリーだけを守る。 定 火消の人足を、臥せる煙と書いてガエン(臥煙)といい、暇だから、刺青(ほ りもの)姿で、ゆすり、たかりをする、ならず者が多く、評判が悪かった。

 火は収まったようだが、表を通る人が、質草の入った蔵に、目塗りをしてい ないと、悪口を言う。 左官の源治はどうした、来ていない、私達でやろうと、 伊勢屋の旦那と番頭、貞吉で始める。 高い所はダメという番頭が梯子を登り、 「火事ってえのは、きれいですねえ、旦那様」。 向きを変えなさい。 無理。  蔵の折れっ釘に片手でつかまって。 バカだねえ、左手でつかまって、右に向 き直ればいいんじゃないか。 土を放り上げるから、すくうように取れ、見送 るな、顔にベチャ。 と、はかどらない。

 遠くから、屋根の上を、臥煙が飛んで来た。 番頭、俺だよ。 若旦那。 下 に居るのは、親父か? 年取ったな。 この火事は、もうすぐ消える。 若旦 那が前掛けを、折れ釘に結わえてくれて、番頭が自由に手を使えるようになり、 手際よく手伝ってくれたので、目塗りも無事済んだ。

 埼玉屋さん、大宮屋さん、蕨屋さん、川口屋さん、赤羽屋さんが火事見舞に 来て、岡本屋さんは父が風邪でと、若旦那が。 跡を継いでいらっしゃる、お 孫さんがいる、ウチの倅と同い年、あいつはどこで、何をしているか。 番頭 はどうした。 まだ折れっ釘にぶら下がっています。 すぐ、下ろせ。

 前垂れをほどいて、折れ釘に結わえて下さった、あの方のお蔭で、暖簾に傷 がつかないで済みました。 無理を言って、待っていただいております、一言 お礼を申し上げて下さい。

[落語]

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