小満んの「お神酒徳利」後半
2014-12-04


 神奈川宿で、鴻池の支配人の定宿、滝の橋の新羽屋(にっぱや)源兵衛へ行 くと、大戸が下りている。 お内儀の話では、四、五日前に、島津様がお泊り になったが、金子七十五両と将軍様への密書の入った巾着が紛失し、内部の者 に嫌疑がかけられ、主人も取調を受けているという。 密書が洩れれば、島津 様のお命にもかかわる。 それならお内儀、安堵なされ、ここに居る善六先生 は占いの名人だ。 先生、どうでしょう。 行をしてから、占いにかかるので、 静かな所を。 離れがある、下が納戸で、上が八畳。 お盛物を、塩の結び、 梅干を入れて三つ四つ、竹皮に包んで、背負えるようにして、草鞋を三足、梯 子も要る。 少し、時間がかかる、八ツまで待つように。 あそこに道が見え るが、江戸はどっちだ? 提灯も要るな。

 ごめんくだせえまし。 と、女中がやって来て、青木村の百姓の娘だが、父 の病気を治したいばっかりに巾着を盗んだのは自分だと白状、去年8月25日 の嵐で壊れた庭の稲荷のお宮の床下に隠したと言う。 お梅、18を、正直に免 じて許すと、帰した。 早速お内儀を呼び、ソロバン占いで卦が出たと、在り 処を教えると、巾着が現れ、宿中大喜び、道中の鼻紙代にと三十両くれた。 そ んなに洟をかんだら、鼻がなくなる、五両をお父っつあんの薬代にと、お梅に 渡した。 お内儀には、稲荷のお宮を直すように諭して、大坂へ発つ。

 三度目の占いとなる大坂では、苦しい時の神頼みと、七日七晩、水垢離をと った。 すると満願の日、風の音に目を覚ますと、一百歳の翁が座っている。  我こそは神奈川滝の橋、新羽屋稲荷大明神であるぞ。 女中の罪をお稲荷様に なすりつけた為かと畏れ入る、と。 さにあらず、霊験あらたか、宮の造営と 信心が戻った、何かの礼をと、稲荷、仏心の力をもって、難波堀江に降り立っ たぞ。 昔、仏法に篤かった聖徳太子の時代、仏敵・物部尾輿(もりやのおと ど)が、多くの仏像、金像を地中に埋めた。 目を吊り上げて、よっく承れ、 鴻池家の辰巳の方角、33本目の柱の下じゃ、観音像が埋もれている、それを掘 り出して、崇めよ。 娘の病気は、たちどころに快復するであろう、善哉、善 哉。

 掘ってみると、一尺二寸の観音像が出て来た。 鴻池は、これを機に米蔵を 開いて、大坂三郷の貧民に施しをし、慈善の徳で娘の病気は全快した。

 善六は、鴻池からもらった大枚金二百両、白絹十疋を、駕籠に積み、大名旅 で江戸に帰った。 お前さん、みんな新羽屋稲荷大明神のおかげだね。 いや、 もとはといえば、かかあ大明神のおかげだ。

[落語]

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