扇辰は羽織なしで、薄紫の着物に薄緑の袴姿、訳があった。 今日3月6日 は旧暦の1月16日で小正月、寒いわけで、5年前にギックリ腰をやってから、 寒いと腰がミシミシする。 だから寒いのは嫌いで、家でつい、たまにはバリ 島でも行くか、と言った。 本当に行くの、とカミさんの目がキラキラした。 休席届を出さなければ、一生寄席はある。 思い切って休むことにして、2月 24日から3月2日までの一週間、実質4日間ですが、バリ島へ行きました。 そ んな敵意に満ちた目で見ないで下さい。 とてもよかった。 暖ったかい、四 季がなくて乾季と雨季がある、雨季だけれど25度から31度で暖ったかいの。 Tシャツと(半ズボンでなく)ステテコで、ちょうどいい。 快適です、行っ てみて下さい。 ほぼ真南で、時差は一時間、物価は日本の半分、とてもよか った。 2日に成田に着いて、3日はボーーッとしていた。 4日は打合せがあ って、家で仕度をしている時、何かの拍子に、ギックリ腰。 一席終ると立て ない、きょうはトリで、緞帳が下りるからいいけれど。
ご商売となると、朝早起きしなければならないのがある。 <豆腐屋の夫婦 それからすぐに起き> どういう意味なんですかねえ。 「トーフー、ナマアゲ、ガンモドーーキ、トーフー、トー…」 これ、豆腐 屋、大きな声出すな、腹に響く。 (小声で)冷奴を一丁くれないか。 器を。 (水に手を入れるのが、ひどく冷たい格好をして、豆腐を渡す。) 取ってあっ た虎の子の醤油、これで終いだ、よく振って…。 フフ、アフ、アフ、アフ、 ウ、ウ、ウ…。 (全部食べて)うっ、うっ、うまい! 見てる、こっちの方 が、寒くなる、11月の終いですよ。 豆腐ほど安い物はない、皮もむかない、 骨もない、生き延びるような気持だ。 住いはどちらだ。 芝増上寺の門前、 上総屋七兵衛と申します。 冷奴一丁いくらだ。 四文で。 こまかいのがな いから、まとめて。
明くる日、トーフー、トーフー。 これ、豆腐屋。 小声だから、豆腐屋か、 うどん屋か、わからない。 何の話だ。 いえ、こっちの話で。 今日は、醤 油なしで…(と、昨日と同じように食う)。 粋なもんですね、本物の豆腐っ食 いだ、死んだ親父に会わせたい。 豆腐ほどうまいものはない。 昨日と合せ て八文。 こまかいのがないから、まとめて。
今日で五日目、四、五の二十文。 今日は、釣銭を持って来ました。 上総 屋、こまかいのがないのに、大きいのがあると思うか。 晦日にまとめて、頂 けるので。 この身が、世に出た時だ。 それは、いつで? 明日が日にも、 見出されるかもしれない、十年先になるかもしれん。 十年…、困るんですよ。 後には、きっと見出される、寄席の楽屋には二十年、三十年見出されないのが ごろごろいる。
一日に豆腐一丁では、腹が減るでしょう、ひもじいでしょう。 一丁借りる のも、二丁借りるのも同じだ、食いだめしたら、いかがで。 あてがないから、 日に一丁借りるのも、心の鬼に責められて。 偉いね、疑るわけじゃないが、 と戸を開けると、部屋の隅には、本がどっさり。 旦那、学問屋さんか、シ、 ノタマワク、青っちろい顔をして、四十にして窓枠とかいう。 本、相当な値 で売れるんじゃないですか。 相当な値で売れる。 浪人はしていても、武士 は武士、本は魂だ、売るのなら、飢え死にしたほうがましだ。 えれえね、旦 那。
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