腸内環境を整える、悪いものと良いもの
2015-09-23


 藤田紘一郎さんは、昨日見たような生物における腸の歴史から、腸は「人の 体はこうなっている」ということを、遠い昔からの記憶できちんと知っており、 常々「腸は脳より賢い」と考えている。 人間の腸には、大脳に匹敵するほど の神経細胞も存在する。 腸には、独自の神経ネットワークがあり、脳からの 指令に頼らず、独立して活動することができる。 腸が担う活動は、生命の根 幹となるものである。

 腸の働きと役割は、(1)消化・吸収、(2)免疫防御、(3)解毒。  (1)…「食べて出す」のが、命の根幹。 人は、よりよく食べ、よりよく 出してこそ、健康に生きられる。 (2)…免疫の働きは主に、感染防衛、健 康維持、老化予防。 認知症を遠ざけるためには、免疫力の増強が必要で、そ れには腸を鍛えることが欠かせない。 腸は、人体全体の免疫力の約70パー セントを築く、最大の免疫器官だからだ。 (3)…解毒は、肝臓の働きだと 一般に知られているが、実際には、肝臓の仕事を大幅に軽減しているのが腸だ。  まず腸がブロックし、しきれなかったものが肝臓に送られる。 また、病原体 や毒物が腸に入ってきたとき、私たちは急激に嘔吐し、下痢をする。

 人間の腸には、腸内細菌が3万種、1000兆個も棲んでいる。 人間の腸が短 くなったのは、肉を食べるようになったことに加えて、膨大な数の腸内細菌を 棲まわせるようになって、消化活動を手伝ってもらえるようになったからだ。  腸内細菌のおかげで、人間の脳は高度に発達したことになる。

 腸内細菌が健康状態を左右することが、近年の研究で次々と明白になってい る。 遺伝子解析の結果、かつて健康の秘訣といわれていた「善玉菌いっぱい、 日和見(ひよりみ)菌ほどほど、大腸菌少々」は、間違いだとわかった。 遺 伝子解析によって新たに発見された大半の腸内細菌は、日和見菌だと見られて いる。 日和見菌とは、宿主の健康状態が良好のときにはよい働きをし、悪化 すると悪い働きをする、菌たちのことだ。 腸の健康状態を握っているのは、 腸内細菌の“最大派閥”ともいえる日和見菌なのだ。 そもそも、「善玉菌」「悪 玉菌」「日和見菌」という呼び方が、あまり適切でなかった。 「悪玉菌」の代 表格とされる大腸菌も、固い食物繊維を発酵させて栄養素やエネルギーを取り 出すのに加わったり、腸内にO−157(病原性大腸菌)などの病原菌が侵入し てくると、いち早く動き出す番兵のような働きもする。 大腸菌が悪さを始め るのは、数を異常に増やしたときだ。 悪玉菌の多くは、動物性の脂肪やたん ぱく質を好物にしている。 油でギトギトの揚げ物、こってりしたラーメン、 丼物、油脂たっぷりのスイーツ、スナック菓子などを、頻繁に口にしていると、 悪玉菌が異常繁殖してしまう。 そうなると“最大派閥”の日和見菌は、ウワ ッと悪玉菌に加担を始める。 体調は転がり落ちるように悪化し、認知症やが ん、うつ病を始めとするさまざまな病気のもとをつくり出すことになる。 認 知症を遠ざけるのも近づけるのも、腸内細菌の宿主である私たちの行動一つに かかっていると、藤田紘一郎さんは言うのだ。

 多種多様な腸内細菌たちは集合体をつくり、その広がりは、お花畑のように 美しいので「腸内フローラ」と呼ばれる。 腸内フローラが多様性と複雑さに 富み、より美しさを放つ腸こそ、体を元気にする腸である。 腸内フローラの 好物は、食物繊維だ。 食物繊維をしっかりとっていると、細菌たちは数を増 やし、美しい腸内フローラを築く。 腸内環境が整うのだ。 また、食物繊維 の豊富な食事は、日和見菌の優勢順位をかえる効果もあるようだ。


続きを読む

[文化]
[科学]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット