小満んの「髪結新三(下)」
2016-07-08


 <鎌倉を生(いき)て出(いで)けむ初鰹>、松尾芭蕉の句で。 鎌倉から 八丁艪の舟で魚河岸まで運んだそうで、<ばかものをあてに四五本初鰹>。

 親分というのは、博打の開帳なんかをしているのだが、町内にもめ事がある と役に立つ。 家主は、自身番に町役人として交替で詰めている。 三か町に 一人ぐらい、名字帯刀を許された名主というのがいて、そこへ召し連れ訴えを する。

 日本橋葺屋町河岸の親分、弥太五郎源七が、深川富吉町の格子づくりの長屋 へ。 おい、ごめんよ。 三尺帯だけの新三。 お前にちょいと、話がある。  これには、言うに言えねえ綾がある。 これだけは、強情言わずに、うんと言 え。 親分とかなんとか威張りやがって、十両なんてはした金はいらねえや(と 叩き返す)。 矢でも鉄砲でも持って来いってのか。 親分、すみません、お刀 を抜くのはご勘弁を(と、車屋の善八が止める)。

 六十二、三の痩せた年寄。 葺屋町河岸の親分さん、この家作を差配してい る長兵衛という親爺で。 申し上げたいことがある、手前共のところへわざわ ざ源七親分だ、私がちょいと間に入ってみたい。 あれは無宿者でしてね。 柄 のない肥え柄杓、手の付けようがない。 三十両で、事を収めたいと思います が、善八さん、帰って、旦那にそれと駕籠を一丁寄越すように言ってくれ。

 新三、居るか。 おっ、旦那で。 旨そうなものがあるな、初鰹か。 三分 二朱でござんした。 よくやった、あの親分の鼻ッ柱を折って。 ここは俺に まかせねえか。 あっしのやりかけた仕事だ、三日でも新三の女房にしたんだ。  金で転べ、俺が間に入ってやる、いくら要る。 三百両。 俺は三十両で請け 合った。 三十両…、嫌でござんす、一晩抱き寝はしてますが…。 わっしも 唯の奴(やっこ)じゃない、上総無宿の入れ墨新三だ。 無宿たあ、人別のな いことだ、入れ墨は人交わりが出来ねえってことだ。 出てけ、一日だって置 くんじゃない。 お前の首は、俺の胸三寸だ。 三十両が嫌なら、店空けろ。  おまかせしたい。 鰹の半身もくれ。 骨付きの方がいい、あとで取りに来る。

 白子屋から駕籠と三十両に、長兵衛にお酒お肴代と五両、持ってくる。 お 前も薄情でいけねえ。 鰹、もらって帰えるとするか。 旦那、旦那、まだ三 十両、もらってない。 お盆に手拭、山吹色を並べる。 ヒイ、フウ、ミイ、 ヨウ、イツ…、これでいい。 五両、五両、五両で、十五両。 十五両だ。 片 身もらう約束だったろ、間に入って十五両。 十五両なんて…、いらねえ。 い らねえなら、もらっておくぞ。 俺が間に入っているんだ、召し連れ訴えする ぞ、店空けろ。 ようがす、しかたがねえ。 五両は、店賃のかたにもらって おく。 なんでえ、もとの十両になった。

[落語]

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