「根っこと翼・皇后美智子さまに見る喜びの源」
2018-09-07


 末盛千枝子さんの『波』連載「根っこと翼・皇后美智子さまに見る喜びの源」 が、9月号で最終回を迎えた。 末盛さんは、不思議なご縁で皇后様のご本を 出版させて頂いて以来、20年以上にわたるお付き合いの中で知り、感ずる皇后 様の素顔が、自分一人の中にしまっておくのは余りにももったいないように感 じてきていて、散々迷った挙句、この連載を決心したという。 2018年1月号 から始まり、第1回・第2回「静かで美しい言葉」、第3回「共にはたらく人 たち」、第4回・第5回「悲しみに寄り添う」、第6回「母と娘」、第7回「共 に在る」、第8回・最終回「ヴェロニカの花」の9回だった。 「根っこと翼」 というのは、1998年9月にインドのニューデリーで行われたIBBY(国際児童 図書評議会)にVTRで流された皇后様の基調講演「子供の本を通しての平和 ―子供時代の読書の思い出」の中にある言葉だ。 その講演は、NHKが数時 間後に52分をノーカットで放映し、あとで日英両語の『橋をかける』という 本として末盛千枝子さんのすえもりブックスから出版され、ロシア、チェコ、 韓国、中国、タイ、ブラジル(ポルトガル語)、ウクライナなど世界各国で日本 語を併記して出版されたそうだ。

 皇后様は講演で、こう述べておられるのだ。 『橋をかける』という本の題 も、ここから来ていることがわかる。

 「今振り返って、私にとり、子供時代の読書と何だったのでしょう。/何よ りも、それは私に楽しみを与えてくれました。そして、その後に来る、青年期 の読書のための基礎を作ってくれました。/それはある時には私に根っこを与 え、ある時には翼をくれました。この根っこと翼は、私が外に、内に、橋をか け、自分の世界を少しずつ広げて育っていくときに、大きな助けとなってくれ ました。/読書は私に、悲しみや喜びにつき、思い巡らす機会を与えてくれま した。本の中には、さまざまな悲しみが描かれており、私が、自分以外の人が どれほどに深くものを感じ、どれだけ多く傷ついているかを気づかされたのは、 本を読むことによってでした。」

 「そして最後にもう一つ。本への感謝をこめてつけ加えます。読書は、人生 の全てが、決して単純でないことを教えてくれました。私たちは、複雑さに耐 えて生きていかなければならないということ。人と人との関係においても。国 と国との関係においても。」

 「根っこと翼」の最終回に、皇后様がその生前にお会いになったことはない けれど、たった一冊の、小さな、たった30頁程のうすい私家版の隻句(せっ く)集で結ばれた宇佐見英治という方の本『言葉の木蔭』の話がある。 平成 13年作者の逝去前年に出版された50部の限定版で、皇后様にはその20番目 が作者の墨の署名とともに贈られている。 あとがきの最後に「書中せめて一 句でも読む人の心にとどまらんことを」と記してある。 皇后様は今もって、 この一冊の本が、どのようにしてご自分の手元に来たか、よく分かっておられ ないそうだが、そこに編まれた隻句のいくつかを心に留められたという。

「生きるためには言葉の木蔭がどうしても必要だ」

「人間のほんとうの共同体は生者と死者から出来ており、そして生きている者 より死者の方が遥かに多いことが書棚ほど自然に感じられるところはない」

 そして平成27年のお題「本」の歌会始に、皇后様はつぎの御歌を詠まれた そうだ。

  来し方の本とふ文(ふみ)の林ありてその下陰に幾度いこひし

 私は、これを読んで、思わず自分の書棚を見渡して納得し、5月に読んでこ の日記に綴った中島岳志さんの『保守と立憲』のことを思い出した。

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