「年輪年代学」の進歩と可能性
2018-12-13


 10月27日の「木簡の古都学」27を書いた、奈良文化財研究所主任研究員の 星野安治さんは「年輪年代学」を専門としている。 「木簡」は完全な形で出 土するのは珍しく、大多数は割れたり折れたり、あるいは表面を削りとった削 屑(けずりくず)の状態で見つかる。 東野治之氏の『木簡が語る日本の古代』 (岩波新書・1983年)の冒頭に、5点の削屑がつながり全長30センチ近くに もなった事例が紹介されているそうだ。 星野安治さんは、この本を読んで、 「木簡」の研究にも「年輪年代学」が応用できるのではないかと考え、現在「木 簡の年輪年代学」と題した研究プロジェクトを推進している。

 木の年輪は1年に1層ずつ形成されるが、同じ時代、同じ地域に生育した木々 の年輪変動が類似するという性質がある。 年輪年代学ではこれを活かし、伐 採年がわかっている試料をもとに構築された標準年輪曲線と照合して、分析対 象に刻まれる年輪の形成された年を、1年単位の精度で誤差なく明らかにする ことができるのだそうだ。

 加えて、年輪形成が地域的な気候要素の影響を受けて変動する特性を利用す れば、古気候の復元や、木材の産地推定なども可能だ。 このように「年輪年 代学」は、年代測定だけでなく、総合的な学問分野といえるのだ、という。

 現在のプロジェクトでは、別個の木より同じ木の年輪曲線の方が、類似度が 高いという性質に基づいて、特に同一材の推定に焦点を当てている。 この分 析を、「木簡」をはじめとする木質遺物に応用すれば、どれとどれが元は同一材 であったかがわかる。 それだけでなく、含まれる年輪の新旧関係から、どの 部位がつながる可能性が高いかも指摘できるようになる。 「木簡」の形状や 内容に、年輪からの情報も付加することで、断片同士を接合し、元の姿に近づ けて、多くの情報を得る、接合検討がより容易になる。 さらには、これまで 明らかになっていなかった同一の「木簡」を見出すことも期待できるのだそう だ。

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