加藤秀俊さんの『暮らしの世相史』[昔、書いた福沢158]
2019-11-23


「「饒舌列島」日本の言論」という章が、加藤秀俊さんの『暮らしの世相史』 にある。 日本には寡黙の伝統があり、昼は農作業、夜は内職というように(た そがれ清兵衛のように)、無言で仕事をしてきた。 おしゃべりは仕事の邪魔に なるといわれた。 それが今や、メディア(とくにテレビ)が、携帯電話が、 とどまることのない饒舌文化をつくりだした。 「はなす」ことをその職業生 活の一部とする人口が圧倒的に増加してきた。 戦後の憲法は「言論の自由」 を保障し、私もそうだが「ホームルーム世代」が生まれた。

 それが、だんだん(1980年代から)言論は不自由になってきている。 圧 力団体が増加し、ある団体が特定の用語について異義をとなえれば、その言葉 を使わないようにする慣行が定着してしまった。 現代のメディアはまことに 脆弱で臆病だ。 筒井康隆さんの断筆宣言は、そうした状況への抵抗だったろ う。 われわれはさまざまな形で独白をつづけている。 「潜行する言論」だ。  パソコン通信、自費出版(私が、ここを読んでドキリとしたのはいうまでもな い)、そして唐突だがカラオケ。 単に表現するだけで自己満足をしばし味わう、 「不自由」な人間が発見した「自由」な世界だ。 「不自由」に甘んじている われらの時代は、じつは陰湿な時代ではないのか。 その先には、内部の圧力 によって破れる噴出が予告されているかのように、加藤秀俊さんにはみえると いう。

       「日蓮の遺産」、外国人問題<小人閑居日記 2002.12.9.>

 加藤秀俊さんの『暮らしの世相史』で、ほかに興味深かった記述を、あげて おく。  「終末と再生−−「世直し」の系譜」の章、「日蓮の遺産」の節。 日蓮の国 家や世の中の改革の必要性を説いた思想が、昭和・平成史で、社会主義運動や 国家主義運動と結びついて活発な動きをみせた。 昭和7年に「一人一殺」の テロ事件をおこし井上準之助や団琢磨を暗殺した井上日召の血盟団も、その基 盤は法華宗だった。(この事件のことは城山三郎さんの『男子の本懐』でくわし く知った) 日蓮宗系の新興宗教に、霊友会、立正交正会、そして創価学会な どがある。 現在与党の一翼をになう政党が、そうした「世直し」の系譜の宗 教団体と深い関係にあることは、あまり指摘されていないことで、注目すべき ことだと思った。

 「現代「異人」考」の章。 日本にいる外国人は、不法滞在をふくめ3百万 人(1999年)。 不法入国、不法滞留は犯罪であり、それに対する甘い態度 はとりかえしのつかない禍根を残す。 先に見た日本語をどうするのかという 問題、その確立と教育にも関係するが、各市町村立の日本語学校をつくれ。 い ま数百万人におよぶ外国人、そしてすでに永住したり、それを願っている「新 日本人」をこの日本列島のなかに迎えつつある時代に、そもそも日本という国 がよって立つ基盤を明らかにし、その定位をさぐらなければならない。


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