山内慶太教授の「福澤先生の統計的思考」から
2020-06-14


 『三田評論』6月号の特集「福澤諭吉と統計学」、山内慶太慶應義塾大学看護 医療学部教授の「福澤先生の統計的思考」も、「2020年、統計的思考を重視す る教育への転換」で始まる。 2020年4月の新しい学習指導要領では小学校か ら高校に至る統計教育が再構築されたとあり、興味深い内容なので、そのまま 紹介する。 「統計的な問題解決」が強調され、その方法を学んで「問題に対 して自分なりの結論を出したり、その結論の妥当性について批判的に考察した りすること」、「生活や学習に活用する態度を身につけること」が謳われている。  実際に、新教科書では、問題解決の為の話し合いが展開しやすい題材を選ぶ工 夫がなされている。 更に象徴的なことは、「統計的探究プロセス」とも言われ るPPDACサイクルが取り上げられていることである。 Problem(身近な課 題の明確化)→Plan(集めるデータとその集め方の検討)→Data(データの収 集)→Analysis(表やグラフを作って分析しパターンを見出す)→Conclusion (最初の課題への結論と新たな課題の提示)のサイクルを回し続けるという思 考方法である。 このことは、統計的思考、あるいは科学的な問題解決プロセ スの思考の教育が重視されるようになったことに大きな意味がある。 実は、 この思考プロセスは21世紀型スキルの核として世界の統計教育では重視され て来たものである、と山内慶太教授は指摘する。

 「「実学」に見られる科学的探究の思考」では、杉亨二(こうじ)、呉文聰(く れあやとし)、横山雅男、岡本節蔵、小幡篤次郎、大隈重信、矢野文雄、牛場卓 蔵、阿部泰蔵が登場する。 福澤先生が日本の統計史の緒をなし、また大切な 役割を果たしたことを最初に指摘したのは、杉亨二の下で統計学を学び、呉文 聰の跡を継いで義塾で統計学を講じた横山雅男であった、という。 横山は、 日本で最初にstatistikに対して「政表」と訳語を当てて翻訳出版されたのが、 『万国政表』(岡本節蔵(後の古川正雄)訳、福澤の校閲として出された世界各 国の統計資料集)であること、小幡篤次郎をはじめ門下生が多数参画して統計 協会の創立に至ったこと、大隈重信の建議で政府に作られた統計院に、矢野文 雄、牛場卓蔵をはじめ門下生が参画したこと、統計の応用の事業の一つである 生命保険業の嚆矢となったのは阿部泰蔵が興した明治生命であったこと、等を あげているそうだ。

 福澤先生は、(上に引いた)統計的思考に通じる思考方法も当時既に唱道して いた。 『学問のすゝめ』、初編で「実学」を説明したところで、「一科一学も 実事を押え、その事に就き、その物に従い、近く物事の道理を求て今日の用を 達すべきなり。」、つまり、どんな学問でも、まずは事実や現象を観察して、そ の客観的事実に基づいて、事象の背後にある理論や法則を追求し、それを日常 の生活に応用すべきである、それが「人間普通の実学」だと指摘している。 十 二編にも、「学問の要は活用に在るのみ。活用なき学問は無学に等し」のあとに、 「学問の本趣意は読書のみに非ずして精神の働(はたらき)に在り。この働を 活用して実施に施すには、様々の工夫なかるべからず。「ヲブセルウェーション」 とは事物を視察することなり。「リーゾニング」とは事物の道理を推究して、自 分の説を付ることなり。」 さらに、その「智見」を談話で「交易」し、著書、 演説で「散ずる」ことの必要も指摘している。

 山内慶太教授の論の前半を紹介した。

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