柳家小里んの「夏泥」前半
2020-07-23


 日本には四季があるといわれていたが、近頃地球温暖化の影響か、いきなり冬、いきなり夏になる。 一番だらけるのが夏で、涼を得て寝ようと、戸を開けて寝て、裏も開けておくと、風通しがいい。 ちょいと起きてよ、お前さん、台所の方で変な音がするんだよ、泥棒じゃないかしら、見て来てよ。 鼠だろう。 チューチュー。 音が大きいよ。 猫だろ。 ニャーン。 猫より大きいようだけど。 犬だろ。 ワンワン。 もっと大きい。 馬かな。 ヒヒーン。 もっと大きい。 牛かな。 モーモー。 牛じゃないよ、象かな。 泥棒は、鳴きようがわからないから、駆け出した。 塀が高くて越えられないので、池に飛び込んだ。 松の枝の下に黒い影があるが、あれは杭(くい)かな、泥棒かな、物干し竿で叩いてみよう。 ほらよ、杭か、泥棒か、杭か、泥棒か? クイ! クイ! クイ! 粋な話があるもんで。

 長屋の突き当りが崖だ、一番奥の家、戸が開いている。 土間で何かが燃えているぞ、蚊燻しか、火事になったらどうする。 物騒な家だ、板っ切れを燃してやがんな。 消してやろう、俺が入ったからよかった。 汚なそうな家だね。 だが、こういう家にいて、裏で小金を貯めて、ボロっきれに包んで押し入れに隠したり、瓶(かめ)に入れて縁の下に埋めたりしている奴がいる。

 オッ、危ねえな、何だ、家の中に落とし穴があるのか。 畳が敷いてない、根太板だけか。 誰か、寝てやがる。 おい、起きろよ。 起きてるよ、お前が入って来た時から、見てた。 何で黙っている。 俺んちだ。 ざまあみろ、あの穴に落っこったんだろう、気をつけて歩け。 長屋の一番奥だから、蚊が集まる、畳を上げて、根太板、燃やしていたんだ。 火事になったらどうする、周りの者が迷惑するだろう。

 出せよ。 何を? 金を出せ、俺は泥棒だ、盗っ人だぞ。 馬鹿、大声を出して、野中の一軒家じゃない、この長屋には車力や相撲取くずれもいるんだ、捕まると半殺しになって、交番に突き出されるぞ。 (小声で)とにかく金を出せ。 ボロっきれに包んで押し入れに隠したり、瓶に入れて縁の下に埋めたりしているだろ、出さないなら、出したいようにしてやる。 きれいだな、ピカピカしてる。 これが目に入らないか。 俺は手妻使いじゃない。 本当に殺すのか、いい所に来てくれた、生きてんの、やになってなってたんだ。 殺せ、殺せ、殺せ! 命を粗末にするんじゃない、身体の具合でも悪いのか。 悪くない。 俺は大工なんだが、博打好きでな、賭場で大層儲かった。 しばらく遊んで、また賭場に行ったら、ついてなくて、みんな取られて、三日三晩何も食っていない。 そんなことを何度も繰り返しているんだ。

[落語]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット