春風亭一朝の「井戸の茶碗」後半
2020-08-21


 清兵衛さん、いろいろ考えた挙句に、千代田朴斎の長屋の家主に相談した。 いい話を聞かせてもらった、「花は桜木、人は武士」、私が口を利きましょう。 高木様、いかがでしょう、屑屋が間に入って商売に行けず、十両を屑屋に、二十両を高木様、お受取り下さい。 あと二十両、私、千代田様に持って参ります。 いかがでしょう。 それで事が丸く収まるなら、受取っておくか。

 千代田様。 わしは受取れない。 では、先方に何か差し上げる物は? 大家どの、この茶碗じゃが、父上が使っておって、わしも使っている、だいぶ茶渋がついておるが。 それで収まった。

 この噂が細川家の家中に広まって、お殿様から、その茶碗を見てみたい、とお声がかかる。 きれいにして、布で包み、箱に入れて、届ける。 ご存知のように、末は総理大臣になるというお家柄、こういうものにお目が高い。 一目見るなり、これはただの茶碗ではない。 鑑定家、何の何某が呼ばれる。 殿、井戸の茶碗、喜左衛門井戸の茶碗、一国一城にも代え難き、値知れずの名器でございます。 三百両が、高木に下しおかれた。

 高木は考え込んで、屑屋を呼び、半金百五十両はもらっておく、百五十両を千代田氏に届けてくれ。

 お願いがあって伺いました。 百五十両…、受取れん。 千代田様のところに、何か向こうに差し上げるものはございませんか。 ちり紙ぐらいしか、ないが。 高木氏はお独り身か、浪人はしておるが、女一通りのことは仕込んであるつもりだ、わしの娘をもらってくれるのなら、百五十両、支度金としてもらっておくが…。 それはいい。

 高木様、千代田様が下さるものがあります。 もう、よいがな。 大変です、あなた、生き物です。 生き物? 犬か、猿か、豚か。 お嬢さんです、十七、八の、品のいい、きれいな方で。 浪人はしておるが、女一通りのことは仕込んであるつもりだ、と申されてます。 どうです、おもらいになりませんか。 おう、そうか、わしも国許からあれこれ勧められて、気が進まず、断っておったが、千代田氏の娘御なら娶るか。 娶りなさい、娶りなさい。 こっちに来て、磨いてごらんなさい、いい女になりますよ。 いや、磨くのは止めておこう、また小判が出るといかん。

[落語]

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