近藤誠先生のセカンドオピニオン
2020-10-23


 高橋三千綱さんは、退院から三日後の9月3日、セカンドオピニオンとして近藤誠先生の意見を聞いた。 もし少しでも食事(温泉卵と温麺だけ)ができるのなら、このまま放射線はうけずに頑張って食べたらどうですかと助言をくれた。 すると肝硬変の影響をはずして考えれば、まだ相当長生きできるはずだという。 ありがたい話である。 しかし、自分の感じでは毛糸一本程度の孔しか食道に空いていない。 いずれ完全に閉ざされてしまうのではないか、すると餓死しかないなと思い始めていた。 楽天家を自認し、あまり思い詰めるタイプではないが、今度ばかりは「あきまへん」と観念し始めていた。

 近藤誠先生は、でもどうしても何かしたい、じっとしていられない場合は放射線がいいでしょう、出来れば、通常の八割程度の線量で広範囲にならず、初発病巣にポイントをあててもらって照射することです。 それより、いよいよ食べられなくなったら、胃瘻(いろう)を造設する、人工的水分栄養補給法という手もあります、といい、やはりこのまま辛抱して食べ続けることを勧めるといった。

 高橋三千綱さんは、近藤先生のガン治療法を信じているし、実践もしてきたが、今度ばかりは「患者の思いをよく分かっていないのではないか」と疑った。 最初から放射線治療を除外して考えているように思えたのである。

 翌朝、ミルクを飲むのにすら手間取り、噛み砕いたつもりの栄養ゼリーが喉につかえ、苦しみながらようやく吐き出したとき、衰弱死を待たずに、死ぬ寸前までジタバタしてやろう、と決意を新たにした。 放射線治療でも何でもやってやろうと思い直したのである。 その日から「バタ足爺さん」となって、無様な姿で「生命島」という遥か彼方の島まで泳ぎだしたのだ。

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