福岡伸一さんの新・ドリトル先生物語
2022-04-19


 福岡伸一さんが朝日新聞朝刊に、昨2021年4月1日から連載した「福岡伸一の新・ドリトル先生物語『ドリトル先生 ガラパゴスを救う』が、ちょうど一年、3月31日に完結した。 ヒュー・ロフティング(1886〜1947)の『ドリトル先生物語』は、子供の頃、井伏鱒二訳の岩波少年文庫で愛読した。 英国人の作者が第一次大戦中、戦場から子供たちに書き送った手紙がもとになったとされ、最初の物語が刊行されたのは1920(大正9)年だったという。

 福岡伸一さんは2020年春、生物学者として長年憧れていたガラパゴス諸島に渡り、大陸から約1千キロも隔絶された島々で固有の生態系が発達し、独自の進化を遂げた奇妙な生物たちの楽園を実際に見た。 チャールズ・ダーウィンは1835年、調査船ビーグル号で航海中、ガラパゴス諸島に約1か月滞在したのが、進化論を打ち立てるきっかけになった。 福岡さんは、そらんじるほどの愛読書と憧れの島々とが結びついて、そこにもしドリトル先生がいたら……と、ひらめいて、ドリトル先生のオリジナルの物語を書きたいと考えたのだそうだ。

 福岡さんのガラパゴス諸島旅行は『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社)という本になっていて、須藤靖東大教授の書評(7月24日朝日新聞朝刊)を読んだ。 ガラパゴスに行きたい、しかもビーグル号と同じ経路で、という福岡ハカセの夢が、乗員8人のマーベル号の1週間ほどの旅で実現した。 最初のフロレアナ島で、人を恐れる気配が全く無い孤高のイグアナやガラパゴスゾウガメの姿を目の当たりにして、いきなりハイテンションになる。 次のイサベラ島への航海中に、羽が退化し空を飛べなくなったコバネウが大ダコと大格闘を繰り広げた揚げ句、ついに丸呑みに成功する現場を目撃。 サンティアゴ島では、ガラパゴスヒタキモドキのさえずりを耳にしたカメラマンがかまえたカメラのファインダーに、鳥たちが面白がって、繰り返し飛び込み続けた。

 イグアナやガラパゴスゾウガメ、ガラパゴスヒタキモドキのそれは、競争、闘争にきゅうきゅうとせずにすむ彼らが本来持っている好奇心なのだ。 福岡さんは「ガラパゴスでは、動物たちに余裕がある」、学術的には簡単に言えないけれど、フィクションならそう表現できる。 ドリトル先生と助手のスタビンズくんの口を借りて、自然のあり方、生命が本来持つ自由さを書きたいと、「福岡伸一の新・ドリトル先生物語『ドリトル先生 ガラパゴスを救う』を語り出したのだった。

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