「のすたるぢや」、中原中也の「サーカス」
2022-11-19


9月16日に「のすたるぢや、萩原朔太郎」<等々力短信 第1159号 2022(令和4).9.25.>を発信した。 しばらく経ってから、小尾ゼミの頃の友人から、感想のメールが来て、「のすたるぢや」から連想するのは、島崎藤村の「椰子の実」だと言ってきた。 「「のすたるぢや」という言葉で「椰子の実」を思い起こすのは、自分が、世の中に溢れる言葉、リズム、テンポを受け入れにくくなり、抒情的なものへ懐古し始めたのかもしれません。」とあって、「椰子の実」を引用しつつ、それぞれの連から受ける感じを書いてくれた。

 そこで、私は「のすたるぢや」で思い出した、若い頃に愛読した中原中也の、「サーカス」という詩で、返信したのだった。 『山羊の歌』という初期詩集にある。 中原中也についての私の好みは、朝ドラ『ちむどんどん』のヒロイン比嘉暢子(黒島結菜)の夫になる青柳和彦(宮沢氷魚)の母重子(鈴木保奈美)の好みとは、だいぶ違うようだった。


幾時代かがありまして
  茶色い戦争がありました

幾時代かがありまして
   冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
   今夜此處での一と股盛(さか)り
     今夜此處での一と股盛り

 サーカス小屋は高い梁
   そこに一つのブランコだ
 見えるともないブランコだ

 頭倒(さか)さに手を垂れて
  汚れ木綿の屋蓋(やね)のもと
 ゆあーん ゆあーん ゆやゆよん

 それの近くの白い灯が
   安値(やす)いリボンと息を吐き

 観客様はみな鰯
   咽喉(のんど)が鳴ります牡蠣殻と
 ゆあーん ゆあーん ゆやゆよん

      屋外は真っ闇(くら) 闇(くら)の闇(くら)
      夜は劫々と更けまする
      落下傘奴(め)のノスタルヂアと
      ゆあーん ゆあーん ゆやゆよん
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