三遊亭小遊三の「蛙茶番」
2023-01-02


 笑点の小遊三である。 出囃子は「バッテンボー」つまり「ボタンとリボン」なのだが、ボブ・ホープ、ジェーン・ラッセルの「腰抜け二丁拳銃」を映画館で観た人は、日本国民、世界人民の何%になっただろうか。

 楽しみは、人それぞれ、と小遊三は始めた。 歌舞伎は、ずっと人気があった。 素人芝居が、孫の誕生祝い、旦那の本卦帰り(還暦)に催される。 学芸会が苦手だった。 物覚えが良くて、顔がきれいなので、浦島太郎をやらされる。 ヒラメのAかBがいいのに。 責任を取らないといけないのが、イヤ。 好きな人は別、やりたくてしょうがない。 でも仲の良くない奴が主役になると、イヤ。 役もめ、ということがある。

 「忠臣蔵」をやろう。 イッちゃん。 勘平、やらして下さい。 気張っとくれよ。 私だって、勘平をやりたい。 三人で、話し合おう。 私は、お軽の亭主。 私は、与市兵衛の婿養子。 13人の勘平が並んだ。 何だ、この芝居は? 多分、観兵式でしょう。

 番頭さん、役者が一人足りない。 伊勢屋の若旦那が出て来ない。 くじ引きで、天竺徳兵衛が化けるガマの役になった。 小僧にやらせろ。 貞吉、貞どんは、芝居が好きだ。 舞台に上がらせてやろうか、代役だ。 ガマだ。 ガマさん、男ですか、女ですか。 ガマガエル。 いやですよ、ガマどんて呼ばれる。 縫いぐるみだ、お小遣いもあげる。 きっかけは? 「デイデイ、ハライソハライソ、ドロッドロッ」ときたら、「ピョコピョコ、ドロピョコ」と、這い出す。 ドロピョコですか。

 もう一人来ない、建具屋の半治、舞台番だ。 役者じゃないんですか。 役者の顔じゃない。 貞吉、半さんが来ないと、舞台が開きませんと、言って来てくれ。 半さん。 留守だい。 留守って、いるじゃないか。 お前のダンツクに、一役おくんなさいと言った。 おい、半治、ウチで化け物芝居をやるんじゃない、その時は、主役にしてやるって、言われた。 行かないよ。

 建具屋の半公、只の馬鹿だ、うち一軒で飯食ってるんだ、やるってことはやる。 あいつは小間物屋の美ィ坊に馬鹿惚れ、ベタ惚れだ。 こう言え。 往来で美ィちゃんに会ったら、建具屋の半ちゃんが人の嫌がる舞台番を引き受けるんですって、と聞いた。 素人がおしろいを塗りたくって、ギッタンバッタン目を剥くのより、おしろいっ気のない舞台番に逃げたところなんて、粋で、いなせだって、言っていた。

 行くよ。 威勢よく、ケツまくる。 フンドシ見せるようなもんだから、去年の夏、神輿をかついだ時の、真っ赤なフンドシ……、そうだ、質入れた。 何とかして、すぐ行くから。 緋縮緬のフンドシを請け出して、ひとっ風呂浴びに行く。 真っ赤ですね。 なりは地味だが、一カ所派手があって、落ちを取ろうてんだ。 油ッ紙にくるんで、頭にのせる。 番台で預かろう。

 バカ半を、早く呼んで来い。 湯へ行って、洗っても駄目だ、造作が間違っている。 半さん、どこだ。 右から三番目が、半ケツ。 美ィちゃん、帰っちゃうよ。 半公、飛び出した。

 兄貴! 半公、これから芝居か。 舞台番と逃げた、なりは地味だが、一カ所派手があって、落ちを取ろうてんだ。 ほら。 派手だ、恐れ入る。

 威勢よく、ケツをまくって、舞台番の位置につく。 美ィちゃん、いねえじゃないか。 静かにしろ。 ン、赤ん坊を泣かせるな。 舞台番のバカ半が、一人でパーパーパーパー騒いでいる。 ちょいと、バカ半をご覧なさい。 オーーッ、本物ですか、あれ。 半ちゃん! ご趣向! 日本一、大道具!

 「デイデイ、ハライソハライソ、ドロッドロッ」 ガマカエルが出て来ない。 貞吉、早く出ろ。 番頭さん、ガマガエルは出られませんよ、あそこで青大将が狙っていますから。

[落語]

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