柳亭市馬の「五月幟」前半
2024-04-29


 いい陽気になりまして、端午の節句も近づいてきました。 五節句、正月七日の人日、三月三日の上巳、五月五日の端午、七月七日の七夕、九月九日の重陽、菊の節句、奇数は縁起がいいと申します。 中国では、数字が二つ重なるのが駄目だそうで、陽気と合せて気をつけろ、ということかもしれません。 唱歌の「こいのぼり」、「甍(いらか)の波と雲の波 重なる波の中空を 橘かおる朝風に 高く泳ぐや鯉のぼり」、その三番、訳が分からない、「ももせのたきをのぼりなば たちまちりゅうになりぬるや (百瀬の滝を登りなば 忽ち竜になりぬるや)わが身に似よや 男子(おのこご)と 空に躍るや鯉のぼり」。 五月の青い空に浮かんでいる「鯉のぼり」、こういうものが残らないと、言葉がわからなくなるので…。

 昔は、菖蒲売りが来た。 菖蒲! 菖蒲! せんだん(楝)、菖蒲! 菖蒲湯にして、一本抜いて頭に巻くと、頭痛から逃れる。 菖蒲を、軒や屋根に上げる。 菖蒲! 菖蒲! せんだん(楝)、菖蒲! 売り声を聞いた侍、厳しい顔で、「何を! 先だっての勝負をいたせ、と申したか。町人から挑まれては、受けぬ訳にはいかぬ」と、長いヤツを引っこ抜く。 「しばらく、しばらく、耳違いは、誰にもある。川を渡るのは…橋、ご飯を食べるのは…箸、道の隅っこは端、と意味が変わる」 「なるほど。だが町人の、言葉の講釈呼ばわりは、捨ておけぬな、勝負じゃ」 「菖蒲は皆、屋根に上げますもので…」

 貧乏な家、お前さん、今日はいつか(日)だと思ってるんだい。 節句がそこまで来てるんだよ。 坊が生まれて、初めての節句、初節句だよ。 新聞紙(がみ)で、大きな兜を折ろう。 何言ってんだい、神田の伯父さんが心配して、五円くれた。 伯父さんも、苦労したな。 あたしが、人形を買いに行くから、お前さん、坊の世話をしておくれ。 野郎の節句だ、俺が行くよ。 伯父さんがね、この金は熊に渡すんじゃない、飲んじゃうからって。 俺が、そんな男に見えるか。 見えるよ。 野郎の初節句だ、どうしても俺が行く。 じゃあ、いいヤツを買ってくるんだよ、道草を食わないようにね。

 人形、何がいいかな、勇ましいのがいい、加藤清正、鍾馗様、金太郎と熊、俺は熊五郎だから、金太郎と熊は駄目だな。 熊兄ィ! こっちだ、寿司屋の二階に皆、顔を揃えてる。 何だ? 喧嘩の仲裁、辰公と金太が喧嘩をした、しかるべき人に手打ちをしてもらうんだ。 俺は今日、用がある。 頼みたい、ちゃんとした顔の人が要るんだ、お願いしますよ。 俺は、用があるから駄目だ。 ちょいと頼む、誰か兄ィを引っ張り上げてくれ。

[落語]

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