トクヴィルはメンフィス滞在中、二年前にこの地区から選出された、変り者の下院議員の話を聞く。 学校へ行ったことがなく、ほとんど字が読めない。 財産がなく、住所不定。 森の中に住み、狩りをして獲物を売って生計を立てている。 トクヴィルは日記に「普通選挙が実施されると、これほどひどい人を選ぶことになる」と記し、民主主義の弊害を心配した。 その議員の名は、デーヴィッド・クロケット。 5年後、テキサスの独立をめざすアメリカ人の一群が、サンアントニオの町にあるアラモの砦で玉砕したなかに、この冒険家がいて、アメリカ史に名を残すことになるとは、さすがのトクヴィルにも想像がつかなかった。
ミシシッピー川をニューオーリンズへ向う船上で、サム・ヒューストンという面白い男に会った。 テネシー州の知事まで務めたが、家庭がうまくいかず、妻を捨てて奥地に逃げ込み、チェロキー族インディアンの社会に入り、族長の養子となって、その娘をめとって、何年間かを暮した。 トクヴィル達が会った時は、再び白人社会に戻る決心をして、同じルイヴィル号の船客となっていたのだった。 5年後、サム・ヒューストンはテキサスに姿を現わす。 馬にまたがり、テキサス独立軍の指揮官として、「アラモの屈辱を忘れるな」と叫びながら、メキシコ軍を散々に打ち破った。 彼はメキシコから独立したテキサス共和国の初代大統領になり、その名は、テキサスの大都会の名として、今でも残っている。
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