春風亭柳枝の「六尺棒」
2025-01-19


 柳枝は太目、紫の羽織に、薄紫の着物。 柳家喜三郎師とほぼ同期で、一緒に旅行に行く、落語の旅では行けない所で、恐山や、広島は瀬戸内海の無人島とか、佐渡島では遊廓の建物の旅館に行った。 すごいボロボロ、志村けんのようなお婆さんが出てくるかと思ったら、普通のご主人だった。 家内が帰って来ました、いらっしゃいませ、と出てきたのが、その通り志村けんみたいで。 古いものが博物館のように飾ってあるのだが、あんな大きな蜘蛛の巣は見たことがなかった。 高浜虚子の短冊、亀田鵬斎の書が屏風になっている。 本物ですか? 本物ですよ。 しかし、その鑑定書が、セロテープで貼ってある。

 遊廓に居続け、七日、八日、そろそろ帰らないと、と考える、九日、十日、懐があやしくなってきて、昼間は帰れないから、夜中に帰る。 俥屋、止めてくれ! お宅は、少し先でしょう。 真ん前で止めてみろ、親父が怒る、火に油を注ぐようなもんだ。 いい家、立派な店、親父さえいなければな。 何だ、酒屋のブチが吠えて……、忘れられたか。 昼間、番頭に手紙を書いた、戸を開けておけと。 番頭は、粋も甘いも噛み分ける男だからな。

 開かないぞ、何だ、鍵をかけたのか。 トントントン、番頭! 佐平! 伴造! 銀蔵! 長松! 定吉! どなたでしょう、夜分どんどんお叩きになるのは? 親父だ。 遅くなりました、開けて下さい。 商人(あきんど)の店は十時まで、ご用は明日に願います。 あたくしです。 あた・くしさんですか、ご用は明日に願います。 お父っつあん、倅の幸太郎です。 幸太郎のお友達ですか、ウチにも幸太郎というヤクザな倅がおりましたが、遊びが過ぎまして、親類一同相談の上、勘当ということになりました。 だしぬけに勘当、だし勘はない、後継ぎはどうするんだ。 後のことは心配するな、と幸太郎にお言付け願います。 そもそも二十五年前、私はお父っつあんとおっ母さんが仲良くして、粗製乱造した……。 やかましい、隣の近田さんの清蔵さんは商売熱心で親孝行、清蔵さんの爪の垢を呑ましたい。 明日の朝、養子を取ることにする。 勘当になったら死にます、首を吊って死にます。 勝手に死ね。 やっぱり、死ぬのやめます。 火を点けます、お茶屋のマッチがある、俵があるからパチパチメラメラ燃える。 火事になって、♪燃えろーよ、燃えろーよ、チャンチャカチャン!

 馬鹿野郎、六尺棒でかっぱらってやる。 出てきたよ。 長い物、振り回して。 危ない親父だ、逃げろ、逃げろ。 塀の上に上がって、六方踏んでる…。 路地に入っちゃおう。 つむじ風のようだ、親父、足早いな、でもゼイゼイ言ってるよ。 子供の頃、隠れん坊してた、この塀をくぐれば……、家の前へ出たよ。 戸、開いてるね、入ってもいいってことだ。 ただいま! 鍵も閉めましょう。

 腰が痛い、今日は帰って寝るとしよう。 番頭が気を利かして締めたのか。 番頭は、粋も甘いも噛み分ける男だからな。 鍵がかかってる、馬鹿な番頭だ、金を使い込んでるかもしれない。 トントントン、番頭! 佐平! 伴造! 銀蔵! 長松! 定吉! どなたでしょう、夜分どんどんお叩きになるのは? 商人の店は十時まで、ご用は明日に願います。 あたしだ! あた・しさん、親父の喜左衛門のお友達でしょうか? 馬鹿野郎! うちの親父は、飛んだ働き者で、日本中の金を集めかねない、勘当ということになりました。 そう、喜左衛門にお言付け願います。 やかましい。 隣の近田さんのお父っつあんは、酒飲みで、女郎買いや遊びが上手、親父にあのお父っつあんの爪の垢を呑ましたい。 幸太郎! そんなに真似がしたけりゃあ、六尺棒を持って、追いかけて来い!

[落語]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット