本日のお掃除役でございます。 江戸時代、日千両と、魚河岸、芝居、吉原を言った。 芝居は櫓三座といって、市村座、守田座、河原崎座があった。 守田座は市川団蔵、昨年亡くなったのが九代目で、八代目は播磨灘に入水して「飛び込み団蔵」と言われた、フグに中った「フグの三津五郎」みたいに。 江戸の四代目市川団蔵、三河屋、俳号は市紅、住んだところから目黒団蔵とか、人間が皮肉なので皮肉団蔵とか言われた。
頭取、親方、大変です、判官をやる今戸の役者が倒れました。 『仮名手本忠臣蔵』四段目の塩冶判官だ。 狂言を変えるかしないと。 それはいけねえ、香盤を持って来い。 ある、ある、これなら、出来ねえことはねえ。 沢村淀五郎、相中(あいちゅう)の役者で、芝居茶屋のセガレ。 役者は、三階の相中から、下立役(稲荷町)、中通り、相中、相中上分、名題下、名題と出世する。 相中の淀五郎を、いきなり名題にするというのだ。
淀五郎、飛上がって喜んで、撒きものをこしらえ、方々へ挨拶した。 初日、四段目の塩冶判官切腹の場だ。 弁当その他を客席に運びこめない「出物止め」、文楽では「通さん場」といい、はばかりへ行っても入れない、気の入った幕だ。
力弥は、三方を持って出て来て、判官の前に置き、いやいやをするように首を振ると、下手を見る。 太棹が二の糸で、トーーン、トーーンと弾くばかり。 「力弥、力弥、由良之助は?」「いまだ参上仕りませぬ」。 「力弥、力弥、力弥…」、「いまだ参上仕りませぬ」。 大星由良之助が花道に、只今到着。 上使の石堂右馬之丞が、「近こう、近こう!」 何だい、こりゃあ、ひどい判官だな、駄目だなあ、芸の勘所があるとやらせてみりゃあ、こんな判官だ。 あーー、嫌だ、嫌だ、と、花道の七三に止まったきりで、そばに寄ってきてくれずに、愚痴をこぼしている。 「由良之助カーーーァ!」、ブツブツ、「待ちかねたぁー!」「委細承知致しまして」。
舞台を降りた淀五郎、団蔵の所へ。 いいから、こっちへ入んな。 由良之助が側へ行かない型があるんでしょうか。 そんな型があるか、俺は知らねえな。 お前が、行かしてくれねえからだ。 石堂右馬之丞は、心ある人だ。 五万三千石の大名が腹を切るんだ、淀五郎が腹を切ってちゃあ、そばに行けない。 どうすりゃあ? 本当に腹を切るんだ。 本当に腹を切つたら、死んでしまいます。 死んだほうがいい、死んじまいな。 ありがとうございます。
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