入船亭遊京の「手紙無筆」
2025-05-31


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 5月26日は、第684回の落語研究会だった。 入船亭遊京、いろんな所でやるのだが、先日は保育園の夏まつり、2歳児40人、座っているのは、私だけ。 後ろのほうで、お姉ちゃんが一人だけ、聞いていた。 その子が、あとで寄って来て、「あれ、本当に面白いと思って、やってるの?」と。 以来、迷いが生じている。 秋に真打に昇進、名前も入船亭扇白(せんぱく)となる(拍手をもらう)。 遊京の名は、師匠の扇遊でなく、大師匠先代の扇橋がつけてくれて、「茶が咲いて遊京白き香を放つ」と詠んでくれた。 その「白き香」の白から扇白(せんぱく)、免許を取ろうかと思っている。

 家のウォッシュレットが壊れた。 扇子でやるのは何だが、水の出るところが、引っ込まなくなった。 ボタンを押すと、いきなり水が出る。 居合で斬られるようだ。 もう一度押すと、また水が出る。 斬り捨てられる感じ。 寄席で話すと、お客様が相談に乗ってくれて、自分で押せばいいと言われた。 手で押し込んだら、出てこなくなった。

 俺、今、手紙を書いてるんだ。 お前、字が書けないんだろう。 いいんだ、向うも読めないから。

 兄ィ、今、暇ですか? 忙しくはない。 見てもらいたいものがある、手紙だ。 見たよ。 どこから来たんですか? 郵便局。 差出人ですよ。 ここに書いてある。 あの人だ。 誰? 手前で考えろ。 上野の伯父さんかな、そそっかしいんで。 上野の伯父さんより、新宿の八公へ、としてある。 八公? 公というのは、信玄公、家康公、偉い人にも使うんだ。 八公! はい。 中身も読んで下さい。 今忙しい。 忙しくはないって、言ったじゃないですか。 昼寝しようと思ったが、寝付くのに忙しい。

 兄ィは、いつも学があるって言ってるのに読めないんですか。 読めない訳じゃない、鳥目なんだ。 今、昼間ですよ。 読むよ、拝啓、前略、一筆啓上、一筆しめし参らせ候、どれがいい、選べ。 前略。 前文、ご免下されたく候、さて八公、最近めっきりお会いしませんが、案じております。 おかしいな、伯父さんには一昨日会ったばかり。 それを、先に言いなよ。 わしも、年取って、勘違いが多くなった、一昨日会ったかな。 この手紙、いつ書いたんです、今日書いたわけじゃない、今朝届いたんです。 読んでいこう、それも勘違いで、昨日会ったな。 間違えたら、書き直すでしょう。 紙が大事だ、会って、どうした? 浅草で鰻を食った。 浅草で食った鰻、実にうまかったなあ、と書いてある。 さよなら、おしまい!

 いじわるしないで、先を読んで下さいよ。 鰻屋では、どんな話をした? 俺は忙しいんだ、質問に答えろ。 祝い膳を貸してくれって、言われた。 追伸、追伸、今度、祝い膳を取りに行く、とある。 何人前ですか? ウン人前だ。 ウン人前、耳が変になった。 五人前だ。 おかしいな、十人来るって、言ってましたけど。 五人前だ、二回に分けて取りに行くと、書いてある、どうだ、参ったか。 お銚子も貸してくれって、言ってたんだけど。 読もうと思ったんだが、お膳の陰に隠れて、見えなかった。

[落語]

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