八光亭春輔の「柳の馬場」
2025-06-04


 八光亭春輔(はるすけ)、彦六の林家正蔵の弟子で、あとむ、照蔵から昭和54年に八光亭春輔になったという、78歳。 黒紋付に、絽の着物だった。 「舌三寸は災いの元」、国会議員の先生も緊急記者会見を開くと、新しいほころびが出て、身動きが取れなくなったりする。

 殿様。 杢市、そなたの療治で世間話を聞くのが面白い。 甘い物が好きか。 一献やってるところだが…、どうだ。 酒も大好物で。 私は宮本武蔵、両刀遣いで、ヘッヘッヘ。 目界の見えない者は、至らぬ者でして…。 夜、曲がり角で人にぶつかった、すると一丁ほど先で、長い竿竹で頭をポカポカやられた。 それで武道を学んでおります。 剣術は一刀流、免許皆伝で。 素晴らしい。 柔(やわら)は起倒流、免許皆伝で。 お客様の身体を触るので、急所を知っている。 槍は宝蔵院クダ流、免許皆伝。 薙刀は静(しずか)流、免許皆伝。 弓も日置(へき)流、免許皆伝。 待て待て、杢市、弓は矢を引いて放つもの、目界の見えぬ者は、どこに的があるのか、わからぬではないか。 足の踏みよう、呼吸の整え、心眼で、金的を射通します。 心眼か、さもありなん、恐れ入ったな。 どう仕りまして。 急に静かになりましたが、厠にでもお立ちかな。

 御当家は、馬術では三河以来高名な御家、立派な馬場に馬のいないのが残念でして。 ひと鞍攻めて御覧に入れるのには、荒馬がよろしゅうございます。 乗りこなす馬がいりゃあ、腕前をご覧にいれられるのですが、残念で。

 先だって、仲目虎次郎がやってきて、見込んだ馬を連れて来てやると言い、四五日経って連れて来た。 試しに乗った者が、わずかな隙に振り落とされて、肩口に噛みつかれた。 そちに、ひと鞍攻めてもらおうか。 私、ちょっと用があるのを、急に思い出して…。 馬、引けーーッ! 喜べ! 実は、講釈場で聞きましたものを、並べましただけで。 杢市を馬場まで案内して遣わせ。 パッパーーッと、杢市を馬に乗せると、後ろから鞭をビシーーッ! 馬はいきり立って、ヒヒーン! どうか、誰か助けてください! 馬場を半廻りして、柳の枝に、盲人が触れて、ぶらさがった。

 手を離すなよ、隣家との境が、深い谷になっている。 材木や石ころで、脳天を打ったら、即死だ。 どうぞ、お助けを! 手を出すことは、できん。 ならば、こういたそう、足場を組んで、その方を下ろす。 これから、鳶の者に使いを出す。 明日の昼前には、足場ができるだろう。 腕が痺れて参りました。 潔く、往生するか。 妻子が路頭に迷います。 長年のよしみだ、当家で養って遣わす。 潔く、往生遣わせ! アッ、アッ、腕が、抜けそうで! 南無阿弥陀仏! 地ベタとの間は、たった三寸だった。 「舌三寸は災いの元」というお噺で。

[落語]

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