笑福亭べ瓶の「地蔵の散髪」
2026-06-04


 笑福亭べ瓶(べべ)、白い着物に、緑色の袴、膝隠しはない。 このネタを演るのは、噺家千人の内、私だけ、TBSから指定された、「時うどん」とかも出来るのに。 泣かせるのは簡単だけれど、笑いはセンスが違う、最大公約数を笑わせる、100点は無理。 小学生なら、「おちんちん」とか言って、合わせればいい。 アンテナから外れる可能性が強い。 僕は好きなので、咀嚼して面白いと思ってもらわないと…。 滑ったら、大惨事になる。

 笑い声じゃないのがある。 滋賀県の病院で、寝たきりの人、15床の前で、二席やった。 「時うどん」、頭を持ち上げて聴く、元気そうな人が多い。 出囃子の音。 一番前の人、仰向けで、逆さまになって(と、高座でその形に寝て)、こちらを見上げている。 三番目の人、警告音が「ピイーーッ!ピイーーッ!」と鳴った。 死んだら、嫌だから、看護師さんに言うと、大丈夫です、「ピイーーッ!」は、笑ってるんです、血圧が上がって、鳴っている。 逆さ富士の人が、「早くやれ!」。 あっちで「ピイーーッ!」、こっちで「ピイーーッ!」、三か所で鳴る。 下げの「三文損した」で、10床ぐらいが「ピイーーッ!」。 警告音で、少々滑っても大丈夫ということが、わかった。

 最近、ボヤが多いので、見回りをしている。 暗がりで、うずくまってる奴がいる。 何、してる? その声は、松っちゃんか。 何や、竹やんかい、こんな路地裏のジメジメしたところに入って、何してんねん。 誰にも言うな。 火付けではないのやろ。 当り前だ。

 こないだ、寝とったら、カカアに頭を叩かれた。 井戸端で、フンドシを出して、ちゃんと紙で拭いてんのか、と見せた。 今度、付けたら、承知しない、と言われた。 それが、また付けてるな、と横っ面を叩かれたんだ。 お尻の毛が多くて、紙で拭いても、そういうことになる。 尻の毛を抜かないと、別れると言われた。 今、ここで、抜いているところだった。 こんなの放送して、いいのか。

 一緒になって十年、嫁さんが好きなので、抜いてる。 なんぼでも、抜ける、豊作よ。 見してみいな。 ウォーーッ! ボウボウやないか。 逆立ちして、向こうを向いてんのかと思った。 手で抜いていたら、八年かかる、俺が知恵を出してやるよ。 竹やん、横町の道具屋で、トリモチ買うて来い、二銭ほど。 がま口、持ってない。 これで、買え。

 買うて来た。 蓋、パカッと開けて、お地蔵様の頭に、トリモチを塗れ。 とにかく、塗るんだ。 松っちゃんは、いつも正しいことを言う。 塗れたか。 フンドシを、取れ。 こんなことに、なります。 お地蔵様の頭に、馬乗りになれ。 ハッ? とにかく、馬乗りになるんだ。 松っちゃんは、町内の生き字引だからな、いつも正しいことを言う。

 ワーーイ、何か冷めとうて、気持いい。 お地蔵様の頭に、お尻をギューーッと、思いっきり、押し付けるんだ。 ハッ! ウワッ! 頭が、入りそうだ。 入ったら、罰が当たる。 加減だよ。 ヒー、フー、ミー、で、前へ飛べ。 痛イッ! 毛が、全部、くっついてる。 前へ飛べ! 痛イッ! 地蔵ごと、抜けるぞ。 万、万歳や! ついてる。 よしんば、うまくいっても、こんなところを、ほかの人間に見られたら、恥ずかしい。 こんにちは! 人が、来るでしょ。 早いとこ、飛んでしまえ! カカアが、大好きや、飛んだら、済む。 大好きや、アッ! 痛イッ! ヤッ! 飛べ!(両手を、大きく円を描くように広げ)飛ーべ! 飛ーべ! 飛ーべ! アーーッ! 多分、こんな感じだ、想像させてくれ。 何人か、ぜんぜん笑ってない。

 ヒー、フー、ミー! ケツが、ない。 大の字になってみろ。 赤子みたいな、真っ白けのケツになった。 カカアが喜ぶ。 お地蔵様の頭にカツラが付いてる。 お地蔵様が歩き出したぞ。 お地蔵様、これから、どこへいらっしゃるんで。 今から、横町の床屋へ散髪に。

[落語]

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