東京国立博物館の『仏像 一木(いちぼく)にこめられた祈り』展を見に行 った。 瞑想する慈悲に満ちたお顔、腰をひねってすらりと立つ肢体で知られ た、滋賀・向源寺蔵(渡岸寺(どうがんじ)観音堂所在)の国宝「十一面観音 菩薩立像」(平安時代・9世紀)をはじめ、日本人がこだわった木の仏像が、各地から集められている。
大きく「檀像(だんぞう)の世界」、「一木彫の世紀」、「鉈彫(なたぼり)」、 「円空と木喰(もくじき)」の四つで構成されている。 檀は白檀、インドで造 られた世界最初の仏像は白檀に彫られたと伝えられているという。 白檀は緻 密で美しく、芳香を放つことから仏像の材として珍重された。 白檀の自生し ない中国では「栢木(はくぼく)」、日本で「カヤ」で代用された。 材の制約 から、小ぶりで、細密な彫を施した像が多く、「十一面観音菩薩」のオン・パレ ードである。
「一木彫の世紀」とは、8世紀後半から9世紀前半にかけて、一木彫の名品 が数多く造られた魅力的な時代を指す。 日本では古来、木は神や霊が宿る依 り代(よりしろ)として信仰されてきた。 この日本古来の信仰と、中国から もたらされた檀像とが融合し、一木彫の基盤が成立したのだそうだ。 向源寺 の「十一面観音菩薩立像」は、すべて針葉樹の一木から彫り出されているとい う、この時期の傑作である。
「鉈彫(なたぼり)」というのは、平安時代の10世紀後半から12世紀頃を 中心に流行した、表面にノミ目を残す一木彫像だ。 関東から東北地方に多い。 材はカツラやケヤキなどが多く、その多くが神や霊の宿る神木だったもので、 「鉈彫」は霊木から次第に仏像が現れてくるプロセスを示していると考えられ る、という。 顔の割れた和尚の像の中から、仏様が現れてくる様子を示した 特異な像、京都・西往寺の「宝誌和尚立像」は、その典型だ。 おどろおどろ しいものかと思っていたが、静謐な感じの像だった。
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