『五の日の手紙』という私家本を4冊もつくったくらいだから、「手紙」に は、ずっと興味と関心があった。 Bunkamuraザ・ミュージアムの『フェ ルメールからのラブレター展』を見る機会を与えられた。 通常の展覧会の終 了後、午後7時半から9時まで、会場内たった100人で鑑賞するという特別 の券を頂いたのだ。 集った顔ぶれを見ると、皇族やマスコミ関係ではなく、 協賛者の関係だったようだ。
今回来ているヨハネス・フェルメール(1632〜75)の作品は3点だが、フェル メールの真作と確認されている絵は世界に32点しかないと聞いていたから、3 点でも展覧会を開く価値は十分ある。 それも(1)アイルランド・ナショナルギ ャラリー(ダブリン)蔵「手紙を書く女と召使」(2)アムステルダム国立美術館、 アムステルダム市寄託「手紙を読む青衣の女」(3)ワシントン・ナショナルギャ ラリー蔵「手紙を書く女」と、手紙をテーマにしたものが集められた。 現地 を回って見ようとすれば、ちょいと渋谷でというような訳にはいかず、かなり の経費と時間がかかるだろう。
1点の前で解説が行われていたので、観客がそこに集中しており、私はほか の2点を、ほとんど独り占めにして、じっくり眺めることが出来た。 写真版 よりも、ずっと鮮明だというのが、第一印象だった。 アムステルダム美術館 の(2)「手紙を読む青衣の女」は、2010年から2011年にかけて修復が行われ、 あざやかな色と細部がよみがえったのだそうだ。 椅子に打たれた表面の真鍮 の鋲は、(3)「手紙を書く女」にもみられるが、側面の小さな釘の頭まではっき りしているのが、印象的だった。 青衣の色は、フェルメール・ブルーと呼ば れるラピス・ラズリの青(東山魁夷や平山郁夫作品で、高価な絵具と聞く)、こ れもワニスを取り除いた修復で、あざやかさを回復したそうだ。
フェルメールがデルフトでその生涯を過ごした17世紀のオランダは、ヨー ロッパで最も識字率が高く、手紙のやりとりが急速に増えた地域だった。 当 時、手紙は個人の気持や強い感情を伝えることができるという考え方が広まり、 オランダの風俗画で、画家たちは手紙によってもたらされる感情の動きを描こ うとした。 手紙を読んだり書いたりする女性の姿は、愛に関連した場合が多 いとされる。 作品に隠された意味を解く手がかりが、描き込まれているもの もあり、(2)「手紙を読む青衣の女」の背景の地図は、遠方にいる恋人を示唆し ているかもしれないという。 壁に掛けられた海景図では、多くの場合、海は 愛、船は恋人を表象していた。
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