神戸への鎮魂と応援『繕い裁つ人』
2015-02-14


 昨年の大河ドラマ『軍師 官兵衛』で、官兵衛の妻・光(てる)を好演した中 谷美紀主演の映画『繕い裁つ人(つくろいたつひと)』を観た。 以前『しあわ せのパン』を観た、三島有紀子監督の作品だ。 (『しあわせのパン』について は、この日記の2012年3月3日「暗い夜道を照らす月のような映画」、4日「パ ンを二人で分け合う幸せ」に書いた。)

 『繕い裁つ人』は、神戸が舞台だ。 神戸の街を見下す坂の上の立派な西洋 館が、こだわり仕立て屋の二代目、南市江(中谷美紀)の南洋裁店である。 そ の店に来る人たちは、坂を登ってくる。 坂道に、その姿が頭からだんだんと 現れるシーンが、繰り返し繰り返し描かれる。 私は、背景の神戸の街が、阪 神淡路大震災に遭った時の情景を、そこに見てしまった。 今年は阪神淡路大 震災から20年、神戸市の人口の約40%が震災を経験していない世代になった という。 市江の祖母である初代の葬儀の日、初代の仕立てた手作りの一点も のの服を着た顧客たちが、その坂道を登ってくる。 女性たちは、黒のベール をかぶっている。 カトリックなのか、神戸の習慣なのか…。

 南市江は、祖母の使っていた足踏みミシンで、祖母の作った服の仕立て直し と、サイズ直しをするのが、主な仕事だ。 あとは、祖母のデザインを流用し たほんの少しの服を新作して、一店にしか出していないが、即日完売する。 自 ら「仕立て屋」と言って、すべて昔ながらの職人のスタイルを貫いている。 南 洋裁店の服は、世界で一着だけの、一生ものの服なのだ。 市江の繕い裁つ服 は、その顧客たちに、こよなく愛されている。

 神戸の大手デパートで服飾を担当する藤井(三浦貴大)は、市江の服をブラ ンド化する企画を立てて、市江にもちかけるが、市江は全く興味を示さない。  市江が図書館に資料を探しに行くと、そこへ藤井が現われ、さらに説得を試 みるが、きっぱりと断られる。 この図書館、神戸女学院のウィリアム・メリ ル・ヴォーリズ設計のそれだ。 ヴォーリズの展覧会で写真を見たから知って いる。 私が中学に通った明治学院の礼拝堂もヴォーリズだ。 三島有紀子監 督、神戸女学院大学を出て、NHKに入ったという。 監督の父上は、スーツのすべてを神戸のテーラーで誂えていたが、その数は極端に少なく、季節ごとのスーツとタキシード一着、それを生涯ずっと大切に着ていたそうだ。

この映画全体に、古き良き時代の神戸への、「鎮魂」の気持があるように感じた。 「応援」については、また後で。

[映画]

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