そこで、□兵衛さんのナンダイ・クイズ、推理綴方に関する意見である。 「気に入らねえね、ええ？ なんだいあれァ。アメリカなんだってね？　あの 流行の源（みなもと）は。いったいいまの日本人てえもなァ、戦争の終りかけ の時分に、もしもこれで戦争が負けちまったら、日本の男という男はみんなア メちゃんにキンタマア抜かれちゃうぞッていってたのを忘れちゃったのかね、 その通りじゃねえか、その通りになっちまったじゃアねえか、ええ？」

　「せめて、あっしの家ぐれえはあのナンダイ・クイズとか推理綴方てえもの に関係なしにいこうと思ってたら、驚いたね、この婆ァさんだ、あれのために つんぼﾝなっちゃったい。」　夜中にひょいと目をさますと、鉛筆をなめなめ、 新聞とにらめっこをしている。　時計をみると、2時半だ。　「なにょゥして るんだてえとね、お前さん、空の色はなんて色だろうねとききゃァがる。」「い い歳をした婆ァ様が空の色はなんて色だろうねというんだから、あっしゃァほ んとのところこいつ気が狂ったかと思ったね、いえ、全く。それが五万円だか の懸賞の推理綴方だてえんだ。それァね、戦後、あッしも昔のような暮したァ いえませんよ、けどね、あッしも小言□兵衛といわれちゃァちッたァひと様に 知られた男でさ、なにもこの婆ァさんに綴方書かしてまで五万円稼いでもらお うたァ夢にも思いませんや。」　「まさかに、そんなあたじけない（けちな）量 見をおッかアに持たせるほど、それほど不自由はかけていないつもりです。腹 が立ってね、いったいてめえそれァどういう量見だてえとね、あたしもこの歳ﾝ なって毎日尻をさかさまにして盥で洗濯をしているのももうあきあきしたから、 ひょいとほうり込みァすうッと洗濯の出来る電気洗濯機の一つも買いたいやね と、こう吐（ぬ）かしァがる。」

　その明くる朝、婆ァさんの耳が聞こえなくなった。　用が足りなくって仕様 がないから、医者に連れて行ったら、「睡眠不足だね、頭を使いましたねときた、 それも並み大抵の使い方じゃァない、生れてはじめて頭を使いましたねとこう いうじゃァねえか。」　過労、神経衰弱、絶対安静を要します。　「これという のもナンダイ・クイズとか推理綴方というものを、はやらせた新聞や週刊誌の なせるわざだ、もう一つ、その源を捜れァアメリカのなせるわざだ。」

「第一、頭の運動てえがね「空の色が□い」てえから誰だって「青い」かな んかだと思うてえと「空の色が黒い」なんてえんだから当たりっこはねえや。」