「世界の一体化とお雇い教師」
2020-08-14


 つづいて、加藤詔士先生の「「お雇い教師」研究の再構成」(日本英学史学会『東日本英学史研究』第19号2020年抜刷)を読む。 一読、「お雇い教師」研究の集大成として、その全貌を概観でき、個別の事例も網羅しているので、この問題を考える時の手がかりとして参照すべき、素晴らしい論文だと感じた。

 「世界の一体化とお雇い教師」。 「そもそも「世界の一体化」は16世紀に始まる。ヨーロッパがアジアとの交易を目指して大航海に乗り出したことで、地球規模での交流が始まった。その後、工業化と技術革新の進展により、通信網が整備され情報面での世界の一体化が進む一方、鉄道、汽船、飛行機が実用化されたことで地球規模での人口移動がおこった。しかも、帝国主義の展開が世界の一体化に拍車をかけ、世界各地が密接に連関した地球世界が形成されるに至った。世界冷戦が終わり、1980年代以降になると、市場経済の世界化と情報化が一段と進んだし、高度に発達した交通・通信網を媒介にして、人・商品・資本・情報の流動化が加速度的に拡大した。今や「地球全体を単一の市場とする世界経済の一体化(グローバル化)」が進行している。」

 日本が開国し西洋の学術・技芸の摂取を意図してお雇い教師を招聘しようとしたころは、ちょうど世界の一体化が進展するころであった。 世界各地をつなぐ鉄道や汽船という交通手段、電信技術や海底ケーブル網という通信手段の飛躍的な発達がみられ、人の往来、物品の移動、情報の伝達が一段と活発になりスピードが飛躍的に増大したころだった。 (馬場はすぐ、福沢諭吉の『民情一新』を思った。) それを背景に、日本は西洋の文明・文化の摂取を実に多様な経路を駆使して進めることができた。 お雇い教師の招聘という方法だけでなく、留学生の派遣、使節団・調査団の派遣、学術文献の輸入・翻訳、万国博覧会の賛同といった種々の方法を駆使した。

 しかも、お雇い教師は、これらの政策の形成と施行に関与したことが注目される。 持ち場持ち場の専門的な献策をしたり、各種の施策について意見を述べて指導的役割を果たしたりして、日本教育の近代化を推進したのである。 お雇い教師の指導で優秀な日本人学生が選抜され、お雇い教師が斡旋して先進諸国の留学先に送り出された。 その留学生たちの留学先での勉学と生活を支援したお雇い教師も少なくない。 また、日本政府が使節団・調査団を派遣したり、万国博へ賛同したりする際には、視察先や調査見学事項、出品物の選定などについて指導したお雇い教師も認められる。

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