柳家花緑の「不動坊火焔」上
2020-08-24


 皆さん、いかがお過ごしですか。 画面の向こうのあなたにお話しします。 ライブじゃない。 違う。 私、今日トリなんだが、トリを取る充足感がない。 ふだんは、状況を加味して、しゃべっている。 客席の笑い声がない。 前の演者、皆すべっている、もろすべり、に聞こえる。 いろんなことが不思議。 しゃべりながら、間が開く場合に、驚くのがない。 ふてぶてしくなる。

 こんな間抜けでいいのかといった連中が登場する、嫉妬心など、はたから見てると人生面白いという、そんな噺で。 吉っさんか。 大家さん、用って、店賃の値上げですか。 違う、お前さん歳いくつだ。 三十六。 嫁さんをもらう気はあるか。 そろそろあきらめようかと思ってた。 訳があるのか、誰かいるのか。 何もない、誰もいません。 たまたま仕事にかまけていて。 回りくどい言い方をしたが、嫁を世話したい。 ぜひ、お前さんのところにきたいと言っている、長屋の女(ひと)だ。 ちょっと待って下さいよ、長屋の女で独りというと、糊屋の婆さん、勘弁して下さい、八十一だ、きつい。 首を縦に振るまで名前を伏せてって、言われてるが、不動坊火焔のところのお滝さんだ。 だって講釈師の不動坊火焔が…。 不動坊火焔がひと月前、北海道の巡業先で死んだ。 死んだんですか、知らなかった、お滝さんなら三年前から私の女房です。 初めて長屋に来た時、忘れもしない、いい声だなと思った、掃き溜めの鶴、あんなきれいな人は見たことない。 寝ても、覚めても、お滝さん、お滝さん、これじゃ駄目になるってんで、不動坊火焔に貸出中だと思うことにした。 だから、返えしてもらわないといけない、恋焦がれてる。

 不動坊火焔だが、芸人で、酒飲むし、借金が百円、莫大な額だ。 お滝さんは、家財道具やら何やら処分して、半分の五十円はつくると、私のところに相談に来たわけだ。 それで身を固める気はないか、と聞いてみて、すぐ長屋の吉っさんはどうだと、水を向けてみた。 長屋の独り身で、ちゃんとしているのは、お前だけだ。 仕事もきちんとやり、身ぎれいにしていて、掃除もする、小金も貯めているという噂だ。 いいですよ、大家さん、家財道具は売らないように言って下さい、貯めた金が百円ぐらいはある。 そうか、いい日を見つけて、婚礼ということにしよう。 ちょっと待って、いい日とか旅立ちとか言わないで、長屋の独り者連中は危ない、下さい、すぐ下さい。 手を出すな、猫の子をもらうんじゃない。 思い立ったが吉日という。 思い立ったが吉日か、お滝さんに話に行ってくる。 日の暮れ方、婆さんと連れて行く、湯でも行ってきれいにして来い。

 ありがたいね、こんなことがあるんだな。 真面目にやってきて、よかったね。 ただいま、って言っても、誰もいないんだ。 だけど、今夜から違う、ハハハハハ、ウフフフフ、笑いが止まらない、笑い死にしちゃう。 お前さん、なんて言うんだろうか。 そうだ、湯に行こう。 アララ、手拭じゃなくて、鉄瓶持って、出ちゃったよ。  吉っつあん、馬鹿に陽気だね。 今夜、嫁さんが来るんだ。 おめでとう、湯銭はいいよ、おごりだ、できるだけ磨いていきな。 よせよ、人のケツなでるな。 おじさん、つかぬことを伺いますが、あなた、お嫁さんはいますか? いるよ。 お嫁さんが来るって日は、どんな心持がしました? 昔のことで忘れてるが、何となく嬉しかったと思うよ。 おじさん、お湯屋さんに行きました? 私、手拭じゃなくて、鉄瓶持って、出ちゃって、大笑い。 おじさん、一緒に風呂に入りましょう。 いいよ。


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[落語]

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