不死の者(ストラルドブルグ)は、幸福か
2024-04-03


 ガリバーは、宮廷から命令が来るまで留め置かれたが、その間にラグナグ語を話す若者を通訳に雇い、宮廷のやり方に従い「足載せ台の前の塵(ちり)を舐めさせていただく光栄」にあずかり、腹這(ば)いになって、進みながら床を舐めて、ラグナグ国の王様に謁見する。 玉座から4メートルのところまで這っていき、そっと両膝を立てて体を持ち上げ、額で床を七回叩き(koo-too。原田範行慶應義塾大学教授の注釈によれば、中国語の「叩頭(こうとう)」から英単語kowtow(「こびへつらう」の意)が生まれるのは、もう少しあとの1804年のこと)、前の晩に教わった法律で定められた挨拶の言葉「神々しき王様が、太陽よりさらに十一半の月長く生きられますように」という意味の言葉を口にした。 1時間余りにわたり王の質問に答えると、喜んで下さり、宮廷内に宿泊先を用意して優遇されたので、3か月この国にとどまることになった。

 そこで、この国にはごく稀にストラルドブルグ、不死の者が生まれるのだと聞く。 王国全体でも男女合わせて総数千百人、首都にも50人ほどがいるという。 ガリバーは、「何と幸福な国でしょう。人間について回る普遍の災いを免れ、死に対する絶えざる重苦しい不安や憂鬱とも無縁で、のびのび自由な心でいられるのですから!」と叫んだ。 さらに求められて、自分がもしストラルドブルグに生まれついたら、どういう人生の計画を立てるかを話した。

 すると、バルニバービ、日本両国の大使を務めたという紳士が、誤解を正しておきたいと、話し始めた。 どちらの国でも、長寿こそ人類普遍の望みであり、願いなのだと感じた。 だが、このラグナグ島では、生きたいという欲求がそこまで強くない、ストラルドブルグの実例を、たえず目にしているからだ。 この国で寿命の限度とされている80歳に達すると、彼らは普通の老人に見られる愚かさと弱さに加えて、決して死なないという恐ろしい見通しから生ずる別の悪癖も出てくる。 頑固で、気難しく、強欲で、陰気で、自惚(うぬぼ)れで、やたらとよく喋るのに加えて、人に好意を持つことができなくなり、人間としての自然の情も涸れてしまう。 90になると、歯と髪が抜け、味覚も失われ、美味しいと思うとか食欲を感じるとかいうことが一切ない。 ストラルドブルグの姿ほど気まずいものは他になく、特に女性は恐ろしい有様で、老齢に伴う通常の醜さに加え、年齢に比例して独自のおぞましさが加わるのだ。

 ガリバーは、今までストラルドブルグについての記録を読んだことがないので、興味を持ってもらえるかと思って紹介した、と書いている。 だが、日本はラグナグと交易があるので、日本人が文章にしている可能性は大いにある。 あいにく自分の日本滞在はごく短期間だったし、日本語にはまるで通じていないので、いろいろ問い合わせることもできなかった、と。

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