「米リベラル 失速のわけ」を、慶應義塾大学の渡辺将人(まさひと)准教授(政治学者、専門は米国政治)が、朝日新聞のインタビュー(1月8日朝刊)で答えていた。 米大統領選でトランプ氏は、得票総数で初めて民主党候補を上回った。 裏返せばリベラル側が多数派の支持を失ったことを意味する。 敗因は、労働者層の支持を失ったことだった。 生活苦に対する労働者の不満に加え、米国の文化的な分断が勝敗を左右した。 米国の白人労働者は、経済的階級である以前に保守的な「文化集団」だ。 銃所持の権利を大切にし、敬虔なキリスト教信者で、異人種間結婚なども望まない生活保守的な人が少なくない。 文化的にリベラルな主張は彼らを遠ざける。
民主党では近年、党内中道派は勢力を失っている。 イラク戦争反対の風を受けて当選したオバマ大統領が、対外関与縮小路線の起源と言える。 マイノリティー初の大統領だが、政策自体は中道で、弱者のための政治ではないと考えた人たちが、「ウォール街を占拠せよ」運動を組織し、反エスタブリッシュメント運動を活発化させた。 それが16年大統領選の「サンダース旋風」につながる。 反格差、反ウォール街を主張して民主党の候補者選びに名乗りを上げたサンダース上院議員が、中道派を左に引き寄せる圧力となり、バイデン政権に至るまで民主党を左傾化させることになった。 民主党の「サンフランシスコ政党化」と言える。 反格差のサンダース氏に加えて、黒人や性的少数者、女性の権利などを軸に据えるアイデンティティー政治が前面に出た。 それでは進歩的な西海岸のサンフランシスコで選挙に勝てても、南部や中西部では通じない。
民主党の左傾化に労働者層が居心地の悪さを感じ、党を出てもいいという思いを抱いていたところにトランプ氏が現れた。 富裕層や経営者の政党と思われていた共和党に白人労働者の居場所を作ったのだ。
人格や発言に問題の多いトランプ氏を支持する人が多いのは、なぜか。 実行力だけを見るプラグマティズムが広がっているようだ。 有言実行だが品のない型破りの人と、高潔な人格者だが政治を変えない人のいた場合、前者を選ぶ投票行動が増えている。 多くの人が嫌々、鼻をつまむようにして投票している。
米国の人口比では保守、リベラルは拮抗している。 しかし、議会両院で多数派を取れず、共和党の保守的な法案を止めにくくなったのは痛い。 また、連邦最高裁判事を指名する機会がさらにトランプ政権中に訪れたら、最高裁の保守化は長期的に固定化する。
左右の分断が強まっているのは、なぜか。 政治は相対性の産物で、リベラルに対する保守の反発は、リベラル自身によってもたらされている面もある。 共和党穏健派は「左傾化した民主党とは一緒にやれない」と考えてトランプ氏を支持する。 民主党でも、トランプ氏台頭がさらなる左派の活性化を生む。 究極のジレンマだ。
民主党でいま検討されているのは、アイデンティティー政治のようなリベラル政策を選挙で語らず、経済格差の是正や福祉政策に特化するという戦略だ。 そうすることで文化的に保守的な人々を包摂し、リベラル連合を維持できる。 その中で中絶や性的少数者の権利を守り、移民に優しい空間をつくればいい。 経済政策と労働者対策に専念することで、リベラルな文化を守るという戦略だ。
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