トランプ政権を支える「テック右派」と「宗教右派」
2025-05-04


 5月1日の朝日新聞「オピニオン&フォーラム」面の下段、神里達博さんの「月刊 安心新聞+plus」が、「「極端」なトランプ政権 読み解くヒント」「支持勢力つなげる「終末論」」だった。 神里達博さんは1967年生れ、千葉大学大学院教授、専門は科学史、科学技術社会論。 5月2日に書いたエマニュエル・トッドさんの「現代の米国は、かつてのようなプロテスタンティズムの国ではない。「プロテスタンティズム・ゼロ」「宗教ゼロ」に向っていると思う。」という意見とは、違う見解だった。

 トランプ政権が、なぜこれまでに「極端」なのか。 その「原動力」はどこから来るのか。 謎を解くヒントとなる論考が、先月、英国のガーディアン紙に載った。 著者は著名な作家ナオミ・クライン氏とドキュメンタリー映画監督のアストラ・テイラー氏だ。 「終末論ファシズムの台頭」、全体としてトランプ政権を支える諸勢力は危険な「終末論」的思想で結びついているとして、警鐘を鳴らす内容の論考だ。

 トランプ政権2期目の大きな特徴として、IT大手の重要人物たちが政権に接近しているという点がある。 イーロン・マスク氏にいたっては、政府の要職に就いた。 彼らは「自由至上主義=リバタリアニズム」に親和的で、優秀な人材ならば人種を問わず活躍すべき、という考え方をとることが多い。 「テック右派」と呼ばれることもある。

 一方で、以前からトランプ政権を支えてきた「ラストベルト」などの岩盤支持層は、キリスト教福音派などの宗教右派の影響が強い。 しばしば移民に反対し、反エリート的であるとされている。

 両派は、政権内で亀裂を生じさせそうに思うが、クライン氏らの論考は、それは誤解だと感じさせる。 「テック右派」には、共有されている「加速主義」がある。 資本主義は不平等や環境問題など多くの課題を抱える。 これに対して小手先の変革は諦め、逆に技術革新や資本主義を加速させることでシステムの矛盾を露呈させ、いわば破壊を通じて社会変革を起こそうという考え方だ。 そこでは所得再分配などのリベラルな制度や考え方は、イノベーションや資本主義の邪魔と見なされる。 また人間の知性を上回る人工知能(AI)の出現や、先端技術による身体の改変で人類を超えた存在に移行することに、期待を寄せる傾向もある。 そして現在の社会システムが破綻した後、強くて優秀な「超人」の時代が来る、来るべきだと、夢想するのだ。

 一方、宗教右派の多くは聖書の内容を文字通り受け取り、世界最終戦争の後に「千年王国」が到来すると信じているとされる。 近年の共和党政権では現実の政治的なシーンにも、その種の思想がしばしば入り込んできた。 ブッシュ(子)大統領の言葉、「悪の枢軸」も、トランプ氏が銃撃されて助かり「全能の神のご加護」と語るなど、宗教的表現を用いている。

 クライン氏とテイラー氏は、テック右派と宗教右派は終末論的なビジョンを共有し、どちらもその現実化を目指していると指摘する。 にわかには信じがたい話である。 だが、ウクライナやガザへの対応など、最近の米国の不可解な態度は、クライン氏らの論考を補助線とすると、残念ながら確かに理解しやすくなるのだ。

 最近の調査でも米国成人の約9割が神または他の「高次の力」の存在を信じると回答している。 フランスの思想家トクヴィルがかつて看破した通り、やはり米国は宗教的な国なのだ。 従って私たちが今、目にしている驚くべきできごとも、実は米国に元々内在していた性質が、極度に肥大化しているという側面もあるかもしれない。

 そんな米国と私たちはどう向き合うべきか。 とにかく彼の国の実像を深く知ることが先決だ。 まずは、そこから。

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