三遊亭兼好の「佃祭」前半
2025-08-05


 この酷暑で、老舗の落語会に来るような、年配の好きな人が一番危ない。 蝉が鳴かない(と、羽織を脱いで、薄い空色の着物になる)。 蚊が出ない。 蚊が、夏に出ないでどうする。 ブーーンという音で緊張する。 掌を叩いて、「母さん、蚊だ、秋だねえ」。

運動会や、祭の日にちを、夏から秋にずらしたりしている。 八百万の神、神様は天井から便所、学問、山、海、夫婦仲(八幡様)、いろんな所にいらっしゃる。 虫歯など歯が痛い時は、戸隠様、有りの実(梨)に名前と痛い所を書いて、橋の上から投げる。 そして、三か月梨を食べないと、治る。 神様の数だけ、祭がある。

 神田お玉が池、小間物屋の次郎兵衛さんは祭好き、まとまりがいいからと佃島の祭へ渡船で行く。 おかみさんがやきもち焼きなので、必ず仕舞舟で戻るからと、出掛けた。

暮六つ、急いで戻らないとと、仕舞舟に乗ろうとする。 もう一杯だ。 ちょっとお待ち下さい、三年前、本所一つ目の橋の上で、身投げしようとした若い女に、五両のお足を渡して助けた旦那さんではありませんか(と、袖を引かれる)。 おい、船頭さん、何とか乗せてくれ。 あなた、大変な人違いを。 旦那さんにそっくりで。 舟が出た、あれに乗らないと、えらいことになるんだが、そういえば、助けた覚えがある。 私は、あの時の不束者で、こちらで所帯を持っております。 顔を見て、思い出しました。 碁の帰りで、袂(たもと)に石を入れているので、身投げだと思いました。 よかったですな、人間、生きていりゃあ、いいことがある。 でも、弱りましたな。 うちの宿が、船頭をしておりまして、舟を出せると思いますので、近くですので、お寄り頂いて。

上座にすみません。 あの時、命を助けていただいたのに、口も利けませんで、お名前もおところも、お聞きしませんで。 お酒は、いけません。 何のおもてなしもしないと、宿に怒られます、いつも旦那さんの話をしていますので。 表が、賑やかで。 喧嘩かな、賑やか過ぎる。 おっかあ、大変だ、仕舞舟が引っくり返っちゃった。 お客人かい…、後でご挨拶を致します。 これから行かなきゃあならない。 エッ、鳥肌が立ちましたよ、私は仕舞舟に半分乗っていた。 金槌だから、ドボン、あなたに助けられた。

おっかあ、今、帰った。 人を詰め込み過ぎたんだ、一人として助かった人はいない。 一つ目の旦那さんに、お会いしたんだよ、家に来て頂いた。 井戸端で水を浴び、浴衣に着替えて、あっしは金五郎と申します、お会いできて、本当に嬉しい。 いつも聞いておりました。 神信心しかないんだろうが、心安い神様がいない、大神宮、住吉様、お薬師様、とげぬき地蔵、戸隠、七福神に加え、神棚に「一つ目の旦那様」と金釘流で書きまして、こいつと二人で朝晩、御燈明を上げて手を合わせておりました。 五両は、少しずつ、お返しいたします。

私は、お玉が池、小間物屋の次郎兵衛と申します。 おかみさんに、命を助けられた。 仕舞舟に乗ろうとして、引き留められた。 お陀仏になるところで、おかみさんは命の恩人です。 やりやがったな、いいや、こんな良い旦那さんを、神様がほっとく訳がない、自分で自分を助けたんでさあ。 家の者が、心配する。 もうちょっと待って、今日中に、お送りしますから。

[落語]

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