次郎兵衛さん、死んじゃったよ。 エッ、朝、湯屋で会ったよ。 佃祭の仕舞舟が引っくり返ったんだ、一人も助からなかった。 湯屋で、お前さんも行かねえかって言われたんだが、仕事があるからって、断った。 葬式、町内の者でやるしかない。 月番は、誰だ? 与太郎か。 悔やみを言いに行かなくっちゃいけない。 どうも、おかみさん、ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョ、さいなら。 一言も、しゃべんないじゃないか。 今朝、お湯屋で会って、誘われたんだが、お金がなくて行かなかった、ほんとによかった、さよなら。
信じられません、引っ越してきたばかりの時、次郎兵衛さんに方々を回って客をつけて頂いた。 所帯を持てって、今のかかあを、蕎麦屋で…、見たとたん、アッ、この人だと思った。 かかあも、そう思ったそうで。 それから、ちょいちょい会って、いい女で、気立てがいいし、明るいし、いい女、大好きで、二人は仲がいい。 一回、喧嘩した、仲間と花見に行って、帰りに吉原へ行こうということになった。 かかあが、怖えのかって言われたから、一緒に行った。 朝になって帰った。 おい、ただいま! 男の付き合いがあるんだ。 あい、お帰んなさい。 ただ、それだけ。 ゆんべは、どちらへ。 吉原に行ったんだ。 無言の窮地。 敵娼(あいかた)は、どんなお方で。 飲んだくれて、なにもしていない、痛い、痛い。 さよなら。 つまみ出せ!
与太郎、何を背負って来たんだ。 早桶。 悔やみをひと言、言うんだ。 次郎兵衛さん、死んじゃったんだってねえ、さみしいね。 おかみさん、焼餅やきだってね、食べたいなと思っていた。
半分は、次郎兵衛さんを探しに、半分は、支度をしよう。 おかみさん、次郎兵衛さんは、どんな形(なり)で出掛けましたか? 薩摩、茶献上の帯、透綾(すきや)の羽織、白足袋、下駄は桐、会津で柾目が16本。 水の中で、そのままの姿でいるわけがない。 身体で何か目星になるものは? 左の二の腕に「玉命」と、私の名前が。 笑うな。 道理で、お湯で二の腕を押さえていた。
こんな所まで、送っていただいて、遠くまで申訳がない。 その先、三軒目が家で。 おかみさんに、よろしく。 簾(すだれ)が引っくり返って、忌中とある。
タッ、タッ、デタッ! なんだ、どけっ。 どうも、ジ、ジ、ジ、ロ、ベ、エさんだ、探してたんで。 キャッ、キャッ、キャッ! 三人一斉に、引っくり返らないでくれ、仕舞舟に乗らなかったんだ。 三年前、本所一つ目の橋の上で、身投げしようとした若い女を助けたことがあった、その女に引き留められて、こういうことがあって、助かったんだ。 世の中、そういうことがある。 めでたい。 (おかみさんは)こんなに心配していたのに、若い女と酒を飲んで。 情けは人の為ならず、みんなも心しなきゃあなんねえ。
探しに行った連中、呼んで来い。 お祝いの、酒盛りだ。 早桶が邪魔だ。 糊屋の婆さん、そろそろじゃないのか。 与太郎は、早桶屋に返しに行く。 身投げを助けると、いいことがあるんだ。 橋の上に、女の人がいる。 丹前の袂に、石を入れている、身投げだ。 お止めなさい。 歯が痛くて、戸隠様にお願いです。 袂に、石を入れてたでしょ。 納めの梨でございます。
セコメントをする