一か月後の晩夏、与太郎は「寿限無」を演るが、まったく受けない。 小夏は、芸者だった亡母の置屋の娘・お栄(酒井美紀)が女将の料亭「柳しま」に勤めている。 八雲がちょっと話があると、小夏を座敷に呼び、「陰でこそこそあの時の事をさぐっているんだって。お前さんが噺家になって、私の鼻を明かそうってのは、全身全霊で阻止する。女は噺家に向かない。」 小夏が「父ちゃんの噺を根絶やしにしたくない」というと、八雲はその場で「野ざらし」を演って、「助六は今も私の中に生きている。お前さんの中にも……。神様みたいな助六と同じにな」と。
小夏は積極的に、与太郎に稽古を付けるようになる。 二か月後の秋、ヨシキリ組の兄貴分のチンピラが、与太郎を訪ねてくる。 噺家になるという与太郎に、落語なんて下らないと、連れていこうとする。 八雲は、「親代わりをやらせてもらっている。ボロボロにして捨てたのを、私が拾っちまった。この人に聴かせてやんな、下らねえ落語を」と与太郎に言い、一緒に浅草雨竹ホールへ連れて行く。 与太郎の「出来心」は大受けで、兄貴分も笑って、拍手していた。 八雲は、「兄さん、俺にいいことを聞いてくれたね、何で落語なんだって」。 そして与太郎に、「帰ったよ。あの人の親分には貸しがあるんだ。前座の勤めに行っといで」。 小夏には、「お前さん、あれに助六を仕込んだね、不愉快だ。お互い、あんちくしょうのような奴に引っ掛かるように、神様につくられちゃったんだ」と。
三か月後、冬。 八雲独演会で、与太郎は「たらちね」をかける。 助六まるかじり、付け焼き刃の稽古で、寝不足、まったく受けずに白けさせる。 八雲が「鰍沢」を演じている袖で、居眠りしてしまう。 円屋萬歳の息子で、八雲の弟子になりたかった円屋萬月(川久保拓司)には、「八代目の弟子を名乗って欲しくない」と言われる。 八雲は、「破門だよ!」
雪が降る八雲の家の門前、与太郎は小夏に頼んだのだろう。 八雲は「よく眠れたな。助六に弟子入りしろ!」。 与太郎は、「師匠の落語は、俺には絶対できない。師匠と落語のそばに居させて下さい。俺には行き場がない。ここに居場所をつくるしかない。」 「お前さんがやりたい落語、お前自身の落語だよ。破門の代りに、三つ約束してくれ。 一つ、 二ツ目まで面倒を見てやる。私のと、助六の落語を全部覚えろ。 二つ、 助六と約束してできなかったことは、二人で落語の生き延びる道を作ろうということだった。この穴を埋めておくれ。出来ないときは、共に心中だ。 三つ、 絶対に私より先に死なないこと。 小夏、お前さんも。 あの人と私の約束の話を聞かせてやろう、長い夜になりそうだ。」
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