柳家三三の「提灯屋」
2025-09-07


 お暑い中、お運びで、と三三。 広く知らせようと、今はネット広告なんてのがあるけれど、昔はチンドン屋。 子供が寄ってきて、ビラを何枚ももらう。 大人でも、女五人のチンドン屋からビラをもらい、指と指が触った、前から三番目が可愛かった、などと言う。 新しい店が出来たんだ、お二階にご案内! なんていいじゃないか。 どこに、何屋が出来たんだ? 読めない。 昔は引き札、天紅といった、駿河半紙に瓦版やこんにゃく版で刷ってあった。 今は活版で刷ってあるから読みやすくなった。 でも、読めないんで、次へ回す。 蕎麦屋なら、長く伸びたような字に、手がなくて、箸を誰が持っているのかわからない、蕎麦の絵だ。 鰻屋は、ヌラっとした字。 天ぷら屋なら、海老の絵があるだろう。 おでん屋は、三角の蒟蒻や大根、鍋の絵。 西洋ローリ(料理)なら、ナイフとフォークに、コック帽の絵だ。 中華ローリなら、渦巻きの鉢の絵だ。 なんだ、みんな読めねえんじゃねえか。

 世の中は、弾みだよ。 テンと三味線が鳴れば、声が出る。 真夏の坂道、てっぺんからの下りが大変だ、ソロリソロリと下りるんだが、車が石に当たって、梶棒が飛び跳ねて、ガラガラガラガラーーッ、あぶねえ、あぶねえ! 何の話だ? はなの一字、ど忘れしちゃった。 二番目の字、生れる前からある字だ。 ぜんぜん駄目じゃないか。 世の中は、匂いだよ。 広告のビラを嗅ぐ。 わかった! 印刷屋だ。 バカ! 恥を知れ、江戸っ子だ。 兄ィは読めるのか? 俺も、読めねえ。

 米屋のご隠居さんだ。 あの人なら、読めるだろう。 皆さん、お集まりで。 こういうのは、話の持ってきようだ、わっちは読めるんですが、読むとみんなに恥をかかせるんで、ご隠居さん、読んでくれますか。 年取ると、眼鏡が要る。 明日は、佐野山に谷風、広告だ。 昔は引き札、天紅といった、駿河半紙に瓦版やこんにゃく版で刷ってあったが、今は活版だ。 「提灯、唐傘店、開店」としてある。 誰だ、「お二階にご案内!」って、言った奴は。 「向う七日間、家紋の描き賃は無代にて、万一描けざる紋これあらば、お望みの提灯をタダで差し上げる。河原町三番地 提灯屋ぶら衛門」 提灯、タダでくれるんだ。

 こういうのは、話の持ってきようだ。 お前の所が、提灯屋だな。 へいへい、提灯屋で、エヘヘ。 笑うな。 どんな提灯がある。 岐阜、小田原、伊達、高張、弓張、馬乗り、盆提灯から、ぶら提灯まで、何でも。 では、ぶら提灯を。 紋帳をご覧になって。 紋帳は、いらない、鍾馗様が大きな大蛇を胴斬りにした紋だ。 判じ物ですか。 もしなかったら、首をやる。 いらない。 わかりかねます。 鍾馗様は手に剣、大蛇はウワバミ、真っ二つでバミだ、「剣カタバミ」だ、ぶら提灯もらっていくよ。

 兄ィ、もらってきたよ、ぶら提灯。 そんなことか、俺も行こう。 ぶら提灯をくれ、紋は「仏壇に地震」。 わかりかねます。  竜胆(りんどう)崩しだ。 俺もやる。 広告見て来た、ぶら提灯をくれ。 口、きけよ。 「床屋の看板が湯に入ったら、熱かった紋」。  わかりかねます。 熱いから、うめろ、「ねじ梅」だ。

 お前さんとこ、提灯をタダくれるんだって。 ちがいます。 ぶら提灯をくれ。 ぶら提灯は、品切れで。 上に笠がついてるやつは? 馬乗り提灯で、高い。 いくらで、引き取る。 俺んちの紋は何にしようか、「ソロバンの読み声が八十一で、やっこさん商売して儲かったので、毎晩遊びに行って、かみさんが怒る。」 何の話で? 「かみさんが、やいのやいの言うんで、出てけって離縁して、可哀想だな」というような紋だ。 わかりかねます。 九九八十一、いっぺん利があったのに、去っちゃった、「括(くく)り猿」だ。 もらってくよ。


続きを読む

[落語]

コメント(全0件)
コメントをする


記事を書く
powered by ASAHIネット