「反復」と「巨大な量」から宇宙をつかむ
2007-12-04


 11月30日、三田キャンパスの北館ホールに小泉信三記念講座、鷲見(すみ) 洋一さんの講演を聴きに行った。 鷲見さんは同学年で、私が志木の高校で生 徒会をやっていた頃に、日吉の高校にいて、提携の活動をした縁があった。 世 の中にはずいぶん頭のいい男がいるものだと思っていたら、のちに文学部でフ ランス文学の教授になっていた。 今は名誉教授、中部大学教授でもある。 演 題は「収集、記憶、分類―フランス百科全書とその周辺」、慶應義塾のアートセ ンターの設立に関わり所長を務めた鷲見さんらしく、豊富な音や画像(動画も) を駆使した講演だった。

 鷲見さんは、幼稚舎以来59年間を、慶應で過した。 私が会ったのと、い くらも違わない少年期、普通部の2年の頃に、読んで感銘を受けた二つの短編 小説が、生涯のテーマにつながったという。 菊池寛の「恩讐の彼方に」と、 コナン・ドイルの「赤毛倶楽部(赤毛連盟)」。 坊さんは21年間こつこつ耶馬溪に青の洞門を穿ち続け、赤毛男は、だまされて不思議に思いながら毎日大 英百科事典の筆写を続ける。 いったい何回鑿を打ったか、その時間の長さ、 そして筆写の巨大な徒労が、一番、心に残り、面白かった、と。 「反復」と 「巨大量」が、ここでの眼目だ。

 鷲見さんのご両親は音楽家で、子供の頃からずっと、父親が毎日ヴァイオリ ンをさらっているのを聞いて育った。 職人芸のようなものでは、毎日の修練 が、やがて大きなものに、巨大な世界、宇宙に行く、その前段の修業なのだと いうことが、子供心にわかったという。 ここで鷲見さんは、バッハの「シャ コンヌ」をメニューインのヴァイオリン独奏で聴かせた。 「反復」と、そこ から得られる「巨大な世界」(宇宙)が、この音楽にはある、と。

 講演のテーマは、巨大な量や構築が可能にしてくれる「世界図絵」(鷲見さん の造語らしい)であった。

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